第11話 食事

 あれから、ゴートンとラモーはバジリスク討伐の報奨金をギルドから受取り、そのまま街を出た。

 バジリスクを討伐した後に襲われた蛇女の事は、二人で話し合った結果、ギルドには報告しないことに決めた。

 下手な注目を集めることを二人とも望まなかったのだ。

 二人の願いはただ一つ。

 二人一緒に、静かに暮らすこと。ただそれだけなのだから。







 パチパチと楽し気に炎が立ち上る。

 焚火の上に、川の水を注いだ調理用の小鍋を置き、火にかける。

 ゴートンは道中で捕まえたビッグフロッグ(子犬ほどの大きさをしたカエル)を慣れた手つきで捌き、一口大の肉の塊に切り分ける。

「すまないなゴートン。アタシは料理がからきしで……」

 その隣で、すまなそうな顔をしながら武器の手入れをしているラモー。

 先日の戦闘で使用した片手斧は損傷が酷く、その場で捨ててきた。予備の武器は常備してあり、その刃を砥石で研いでいる。

「別に構わないよ。料理は嫌いじゃないしね」

 切り分けた肉と、近辺で採取したいくつかの野草を一緒に鍋に放り込んだゴートンは、刃を研いでいるラモーに質問する。

「その斧……あえて安物の武器を使っている事には理由があるのかい?」

ゴートンの問に、ラモーは少し照れくさそうに「気づいてたのか」と話し始める。

「普通の戦士なら、自分の武器には気を使うだろう。オーダーメイドで作ったり、業物を買ったりな。でもアタシのスキルの関係上、あんまり武器を丁寧に扱うことができないんだ。理性がなくなっちまうから、意識を取り戻したときに武器を無くしてたなんてザラだし、今回みたいに刃が潰れっちまって使えなくなることも多い」

 ”だからこそ”手斧を武器としたのだという。

 そもそも、この手斧は武器ではない。枝を切るときに使う日用品だ。

 故に、どんな場所でも安価で調達することができる。

「なるほどね。その武器にはそんな意味があったのか」

「そうだな、アタシは近接系の職業でも特殊な部類だから」

 そしてラモーはちらりとゴートンの所有している治癒術の触媒、木製のスタッフを見る。

 彼の体格に合わせた巨大なスタッフで、何も知らない人間がみたら、それは魔法の触媒ではなく木の棍棒に見えるだろう。

「そのスタッフはオーダーメイドかい?そのサイズは普通の人間にゃ扱えないだろう?」

「ん?あぁ、これか。いいや……これは自分で作ったんだ」

「自分で作った!?」

 驚いた様子のラモーの反応に、ゴートンは小鍋の様子を見ながらポリポリと頬を掻いた。

「昔は今より見た目の差別が酷くてね、人間の街なんて入らせてもらえなかったし、特段エルフやドワーフたちに歓迎される見た目ではないからね」

 ゴートンの言葉に、ラモーはふと思い出す。

 ”獣人”

 あの時、相対した蛇女が言った言葉。

「なぁゴートン。”獣人”ってなんだ?」

 ピタリと、ゴートンが動きを止める。そして少し困ったような表情を浮かべて、ゴートンは小鍋を火から外した。

 食事用の木皿に煮込んだカエル肉をよそってラモーに手渡しながら、ゴートンは静かな声で語りだす。

「そうだね……まずは何から話そうか」







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