第3話 祝福と呪い

 ”職業”とは、始祖より与えられた祝福であると言われている。

 ”戦士””魔導士””鍛冶師”など、まれに生まれてくる職業持ちの存在。

 彼らはその職に沿ったスキルを持って生まれ、あるいはレベルの上昇と共にスキルを得る事ができる。

 職を持って生まれてくる存在は百人に一人程度と言われており、故に職を持つ子が生まれれば周囲はお祭り騒ぎだ。

 まさにそれは祝福。

 しかしラモーにとって、職業とは”呪い”に等しかった。

 職業 ”狂戦士”

 複数のスキルを得ることのできる他の職と違い、狂戦士の持つスキルはたった一つ。

 スキル”狂化”

 スキル発動と同時に使用者の理性は消え去り、体力の尽きるまで周囲のものを破壊しつくす”獣”と化する。

 ラモーの最も嫌悪するスキル。

 初めての発動は物心のついたころ。

 一緒に遊んでいた男の子と、些細なことで取っ組み合いの喧嘩になった。

 それだけならよくある子供の喧嘩。

 しかし、その時生まれて初めてラモーの呪いは発動してしまった。

 気が付くと汗だくの父親に拘束されていた。無邪気にどうかしたのかと尋ねるラモーに、父親は今まで見せたことのない、怒りと恐怖がごちゃ混ぜになった視線をラモーに向けた事を覚えている。

 後から聞いた話によると、スキルを発動したラモーは喧嘩相手の男の子を組み伏せ、その歯をすべて叩き折ったという。

 騒ぎを聞きつけてやってきたラモーの父親が彼女を取り押さえたというわけだ。

 物心がついたばかりの少女だというのに、スキルが起動した状態のラモーを抑えるのは、大人の男の腕力でもギリギリだったらしい。

 今はまだいい。

 しかしこの子が成長した時、この小さな村に止められるものがいるだろうか?

 ラモーの両親は悩んだ。

 手が付けられなくなる前に殺してしまった方がいいのはわかっている……しかし、ただの農民である彼らに、我が子を殺すような度胸なんてなかった。

 そうしてラモーの両親は決断する。

 あくる日、ラモーは傭兵団に売られた。その時どんな気持ちだったのか、今となってはもう思い出せない。




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