第4話 シンプルな戦略
「難しい事は考えなくていい」
傭兵団の団長は、ラモーにそう言った。
与えられたのは子供の筋力でも扱える小さなナイフと軽い革の防具だけ。
難しい事は考えなくていい、そして考える必要はないと、団長は言った。
「ラモー、お前はただ敵のど真ん中に突っ込んでからスキルを発動したらいい。そして生き残れば金をやる。シンプルだろ?」
”狂化”のスキルは非常に強力だ。
戦士が持っている”身体強化”より更に数段階身体能力を引き上げる事ができる。
ただ非常に使い勝手が悪い。
発動中は術者に理性が無く、その命か体力が尽きるまで止まることは無い。
非常にレアな職業だが、それでも手放しで喜べるような職業でもないのだ。
そこで傭兵団の団長は考えた。
敵味方無く襲い掛かってしまうのなら、いっそ敵陣のど真ん中に単騎で放り込んでしまえばいいと。
もちろん、非常に危険な役割だ。
いくら ”狂化”のスキルが強力とはいえ、スキルによって引きあがる身体能力は、術者本人の能力に依存する。
スキルとは何でもできる万能の奇跡ではなく、あくまで身体能力の拡張に過ぎない。
敵陣の中に一人放り込まれた兵士の生存率などたかが知れている。
意表を突かれて多少のダメージは入るだろうが、相手もプロの兵士。冷静になれば対応は容易だろう。
そして、団長はそれでもいいと考えた。
そもそもが、二束三文のはした金で買った小汚いガキが一人。
ガキ一人の命で、敵の兵士を2~3人でも減らせれば十分に釣りがくる。
そう……思っていた……。
「うそ……だろ…………」
ラモーを送り込んだ混乱に乗じて敵の拠点を叩こうと、部下を引き連れてやってきた団長。
目の前に広がるは敵兵の残骸。
血と肉片に塗れた地面。拠点は不気味なほどに静まり返っている。
連れてきた部下の一人が地面に胃の中身をぶちまけた。
無理もない。
目の前に広がるは、長い傭兵経験の中でもほとんど見たことのない地獄だった。
ラモーは……あの小汚い子供はどうなったのだろうか?
やがてぺたぺたという気の抜けた足音と共にこちらにやってくる小さなシルエット。
ごくりと生唾を飲み込む。
団長は、自分が恐怖を感じていることを自覚する。
「これ……折れちゃったみたい。もっと丈夫なやつが欲しい……」
敵の返り血に塗れたラモーは、根元からポッキリと折れたナイフを団長に見せた。
団長は冷や汗をかきながら、懐から数枚の金貨を取り出し、ラモーに握らせる。
「……これが今回の取り分だ。その金で好きな装備を買うといい」
◇
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