第12話 ただの称号

「……」


俺は無言でおしっこを続ける。

一度出すと、こういうのは急には止められないのだ。


ああ勿論、目の前の美女――ゴキミ(?)にかけ続けるとかはしてないぞ。

咄嗟に横に逸らしたので、被害は最小限だ。


唐突な聖水プレイとかショッキング過ぎるからな


「神に選ばれし聖女様。私は闇の精霊レプティス――いえ、今は貴方様から名を頂いたゴキミで御座います。ですのでゴキミとお呼び下さい」


おしっこが終わってアナコンダをズボンにしまった所で、女性が口を開いた。

やはり彼女はゴキミだった様だ。


しかし、闇の精霊か……ていうか、レプティスって立派な名前があるのに、適当に俺が決めたゴキミなんて呼び方で本当にでいいのか?


「ん?ちょっと待て、今……俺の事聖女って言った?」


「はい。貴方様こそ、神に選ばれし至高の聖女。私は貴方様に仕えるためはせ参じいたしました」


「いや……俺おもっくそ男なんだけど?」


精霊が聖女に仕えると言うこと自体は――闇でもそうなのかという思いはあるが――特に不思議ではない。

が、どう考えても俺は聖女ではないのだ。


「聖女というのは、あくまでも称号にすぎません。最初に神に選ばれた者の性別が女だったため、そう呼ばれる様になったのです。ですので、貴方様は紛れもなく聖女様であらせられます」


「な、なるほど」


初代が女性で聖女って称号になってるなら、まあ確かに女限定って訳ではないのだろう。

だがそうなると疑問が浮かぶ。

教会の人間が、俺が男だって理由で聖女ではないと判断している点だ。


「教会の人は俺が男だからって、聖女じゃないって言ってたんだけど……」


「初代聖女様が呼び出されたのは千年前。人の寿命は短いため、遥か昔に呼び出された聖女様に関する情報が失伝されてしまったのでしょう」


「なるほど……」


千年前の記述なら、無くなったりねじれたりしててもおかしくはない。

それなら勘違いしても仕方ないな。


「じゃあ教会に行って、俺が聖女だって伝えた方が良いかな?」


聖女じゃないから追い出されたのであって、聖女なら手厚い支援を受けられるはず。

ああでも、聖女だって分かったらなんか色々やらされそうだな。

おしっこ量産のために、がぶがぶ水のまされたりとか。

ありえる。


「必要御座いません。エテネは人の欲望によって、都合よくねじ曲がった教理を掲げる教会を信頼しておりませんから」


「そうなんだ」


「はい。もし彼らに聖女様のお世話をさせるつもりだったのでしたら、行き違いの起こらない様に御配慮されていたはず。それが無かったのは、教会に任せる気が無かったためかと。彼らに任せれば、聖女様がいい様に利用されるのは目に見えていますし」


「あー、まあ確かに……」


俺や呪いを受けたティティに対する行動。

それを考えると、キミの言葉には納得しかない。


……あんな奴等、神様が信頼する訳ないよな。


「でも……信頼してない割に召喚は教会に任せてるよな?」


ふと疑問に思う。

そんな信頼できないなら、召喚も他に任せれば良かったのにと。


「お恥ずかしながら、我ら精霊は現在、邪竜によってその力に肉体を封じられてしまっております。そのため他に召喚を行える者がおらず、苦肉の策としてエテネ様は教会に命じられたのです」


他に選択肢がなかった訳か。

というか、今サラリと邪竜とか、精霊は封じられてるとか重要なワードが混ざってたよな。


教会の人間も、邪悪な魔物に対抗する為に聖女を召喚した的な事言ってたし……ひょっとしてその邪竜ってのを倒すのが聖女――つまり俺の役目って事か?


「えーっと、ひょっとして……その邪竜を何とかする為に俺は呼ばれたって事でいいのか?」


スルーするのもあれなので、恐る恐る聞いてみた。


「はい。我ら精霊を解放し、共に邪竜を封印するのが聖女様の使命となります」


うんまあ、そうだろうと思ったよ。

でも、俺のチートって洗浄と解呪効果のあるおしっこだけなんだが?

それでどうやって戦えと?


まさかおしっこをかけて邪竜を倒せとか言わないだろうし……


ああでもゴキミがおしっこでなんか変化してたし、他の精霊も同じ感じで封印解くなりパワーアップさせるなりして、そいつらに戦って貰う感じなのかも。

聖女ってアタッカーってよりは、補助や回復主体なイメージがあるし。


しかし俺が聖女か……


冷静に考えると、選ばれた人間として必死に邪悪と戦うより、一市民として気楽に生きられた方が絶対楽なんだよなぁ。

更に言うなら、地球の元居た環境に帰らせて貰えるのがベストだ。

金の心配も無く、好きな事だけやって生きれるし。


ま、無理だろうけど……


帰る術があったとしても、こういう場合絶対全部終わってからってのが相場だし。

でも一応聞くだけ聞いてみよう。


「えーっと……聖女の使命とかには興味ないんで、元の世界に戻して欲しいんだが?」


俺の言葉にゴキミがニッコリと微笑み、こう告げる。


「不可能です」


と。

ですよねー。

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