第11話 おねだり
「わんわん」
「ポチンの呪いも治ってるな」
抱き上げ、その腹部を確認すると、腹部にあった呪いの痣が綺麗さっぱり消えてなくなっていた。
どうやら俺のおしっこが呪いを消したと考えて間違いないだろう。
たまたま振りかけたタイミングで。
たまたま一人と一匹の呪いが治った。
そんな事は普通に考えたらありえないからな。
因みにティティは俺の膝に頭をもたれ掛らせて眠っている。
腹が膨らんだのと泣きつかれたってのもあるだろうが、呪いが治った事で緊張の糸が切れたんだろうと思われる。
「うーむ……しかし、だとしたらどうした物か」
悩む。
俺のおしっこにスーパーパワーが宿っているなら、それを押して売り出せば一儲けする事も可能だろう。
そうなればもう生活費の心配は無くなる。
それに呪いの特効薬として広まれば、ティティの様に呪いを受けている人達を救う手立てにもなるので良い事尽くめだ。
じゃあ何を悩んでいるのかと言うと……
教会だ。
渡された説明書を読んだ限り、教会は神の祝福を受けた大陸最大の宗教団体である事が分かっている。
当然、そう言うデカい組織は面子を重視する物だ。
そしてそこがネックになってくる。
もしおしっこを売りに出せば、教会の面子は丸潰れになってしまうだろう。
なにせ教会で手に負えなかった呪いを、俺が解呪できる訳だからな。
それの何が問題なのか?
いやいや、神の恩寵を受けてるとか言いながら呪いにかかった人間を放置して、しかも自分達で呼び出した異世界人を平気で追い出す様なふざけた組織なんだぜ?
そんな所の面子を潰す様な真似をしたら、どんな真似をされるか分かったもんじゃいって話だ。
それこそ中世の魔女裁判みたいに、異端として問答無用で処刑されかねない。
「まあ販売は止めとこう」
解呪効果のおしっこがあれば救われる人間がいる。
それは分かってはいるが、残念ながら俺は聖人君子じゃないからな。
顔も知らない他人と自分の命を天秤にかければ、当然だが自分側に傾く。
「ま、しょうがないよな……ん?」
仕方ない。
そう結論付けた俺の視界に、小瓶を器用に掴んで飛行するゴキミが飛び込んで来た。
小瓶は俺がおしっこを入れていた物だ。
「へぇ、そんな事も出来るのか。器用だな」
瓶に手を伸ばすと、何故かゴキミはそれを躱してしまう。
そして狂った様に旋回しだした。
「なんだぁ?そういやさっきも興奮したみたいに暴れてたよな?」
あの瓶に何かるのだろうか?
宿屋で売って貰ったものな訳だが……まさか俺のおしっこか?
「えーっと、おし……じゃなかった。洗浄液が欲しいのか?」
俺がそう聞くと、ゴキミが急上昇した。
上昇はイエスを示す行動だ。
どうやらゴキミは俺のおしっこが欲しかった様だ。
「なんだ。お前も綺麗になりたいのか」
虫っぽい何かとは言え、一応雌だからな。
汚れを落として綺麗になりたいと思っても不思議ではない。
「でももう使い切って……てまあ、また補充すればいいか」
別にもよおしてはいないが、朝ご飯食ってからもう大分時間が経ってるし、出そうと思えば出せるはず。
ここはゴキミの為にひねり出してやるとしよう。
所詮はおしっこ。
勿体ぶる程の物じゃないしな。
「どれ……」
ティティは寝てるし、幸いここは人気のない空き地だ。
俺はゴキミから瓶を空き受け取り、空き地の端にある謎の壁まで寄ってから社会の窓を全開する。
ああ、言っとくけど立ちションじゃないぞ。
基本瓶に納めるし、溢れた分のおしっこも周りを綺麗にするだけだからな。
そう、これはむしろ清掃作業と言っていい。
いやまあ結局は立ちションには違いないが……ま、細かい事は気にしない事にする。
何故ならここは異世界だから!
細かい条例とかないだろ。
たぶん。
瓶の蓋を開け、先端を添える。
さあ、後はブッパするだけだ。
「オンユアマーク。レディ……ゴーー!」
カッコいい発信コールと共に、俺のアナコンダから神秘の洗浄液が放たれる。
だが――
「なにぃ!?」
ゴキミがもう辛抱堪らんとばかりに瓶に突っ込んで来た。
弾け飛ぶ瓶。
うなる放尿。
そしてそれを滞空する状態で全身に浴びるゴキミ。
「いや流石に少しぐらい待てよ。どんだけ――って、まぶしっ!?」
その時、おしっこの滝を浴びていたゴキミの体が光り輝いた。
さっきのティティやポチンとは比べ物にならない程の光量だ。
その強烈な光に俺は思わず目を瞑る。
「何だってんだ?」
瞼の奥を赤く染め上げる程の閃光は直ぐに収まった。
謎の発光現象に驚きつつも、俺が目を開くと――
「――っ!?」
――黒いボンテージ服を身にまとった黒髪の女性が俺の前に跪いていた。
誰この人?
え?
まさかゴキミ?
状況的にはそれ以外考えられない訳だが……
あ、因みにおしっこは絶賛継続中だ。
跪いてる女性の頭に。
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