第9話 おじさん

「はぐはぐはぐ」


「わうわうわうわう」


少女――ティティが勢いよく買って来た肉を挟んであるパンに噛り付く。

その横では単眼のサイクロドッグ――ポチンが木皿に満たした謎のミルク(よく分からん生き物)を必死に飲んでいた。


まあよっぽど腹が空いていたんだろうな。


「私は……」


食事を終えたティティから、俺は彼女の身の上話を聞かされる。

それは聞くも涙、語るも涙の内容だった。


――ティティに呪いが現れたのは5年前、彼女が5歳の時だ。


父親は呪いの現れた娘を捨てて蒸発し、元々病弱だった母親は呪いによる不幸や、周囲の目からくる心労で翌年には他界してしまう。

その後彼女は年老いた祖母に引き取られ、外の目につかない様暮らしていたそうだが、1年ほど前にその祖母も元から患っていた病気が悪化し亡くなってしまっている。

しかもその直後に一緒に暮らしていた家が火事で燃えてしまい、彼女は暮らす場所さえ失ってしまう。


で、それ以来行き場を無くしたティティは、この空き地で暮らしていると言う訳だ。


俺だったら確実に絶望してる様な状況だ。

この子が不憫でならない。


因みにポチンと出会ったのはほんの1週間前の事らしく、自分と同じ呪いを受けていた事にたいそう驚いたそうな。


「大変だったね……」


「はい、はい……うぅぅぅぅ……」


優しく声をかけて上げると、ティティはまた泣き出してしまう。

そんな彼女を優しく抱きしめてやる。


……超臭いけど此処は我慢だ。


ティティは夜中人目の付かないタイミングでゴミ漁りなどして糊口を凌いでいたらしく、当然体を洗ったりしていないので猛烈に臭かった。

彼女に対する同情心がへし折れてしまいそうになるほど。


いやまあ、本当にそれで同情する気が失せたりはしないけども、ほんとマジで臭い。


「ご、ごめんなさい。服、汚しちゃって……」


泣き終えたティティがばっと俺から離れ、謝って来る。


「気にしなくていいよ」


涙の汚れなど気にする必要はない。

接触した事による服についた真っ黒な汚れに比べれば、涙の染みなど誤差もいい所だ。


いやまあ、そっちも別に気にする必要はないが。

そもそも抱きしめたのは俺の意思でな訳だし。


「ごはん……ありがとうございました。でも、もう私には近づかない方が良いと思います。お母さんも、おばあちゃんも私のせいで死んじゃって……」


ティティは自分の呪いのせいで、二人が亡くなったと思ってるみたいだが――


「んー、どうだろうか。二人は病気だったんだよね?だったら呪いの生とは限らないんじゃない?」


そもそも持病持ちだったり、体が弱かった訳だし、必ずしも呪いのせいで死んだとは限らない。


もちろん何らかの影響はしていただろうけど、きっと主原因ではないと思う。

もしポンポン人を死なせてしまう様なきっつい呪いなら、国や教会なんかが隔離に乗り出したりしてるはずだろうし。


「でも……」


「大丈夫。俺は死ぬ程健康だから、呪いなんかで死んだりしないさ。安心してくれ」


「おじさん……」


ティティがまた泣きそうになる。


しかしおじさんか……長い事外に出て人と接してないから実感なかったけど、確かに俺ってもうおっさんって歳なんだよなぁ。


まさか人生初の『おじさん』呼びが異世界でとか、夢にも思わなかった事である。

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