第6話 ゲットだぜ!

クルーエルは巨大な中央大陸と、その周囲にあるやや小さめの六つの大陸によって構成される世界だ。

その配置だが、六芒星を思い浮かべて貰えば分かりやすいだろう。


七つの大陸の形は、まんまその六芒星の形をしていた。

そのうちの一つ。

南東の大陸には三つの国があった。


その中の一つ、南部に位置するカルーガン王国。

その王国の首都よりやや南部に、教会の大神殿の一つがある大きな街がある。

そこが今俺のいる場所だ。

更に正確に言うなら、その中で若干貧民層っポイ地区の安宿が俺の泊った宿のある場所である。


「はいよ!」


「ふむ……」


朝起きた俺は、宿の一階部分の食堂で食事をとる事にした。

昨日召喚されてからなにも食ってなくて、腹ペコだったからな。


メニューで一番安いのはパンとスープのセットだったので、それを注文した訳だが……


出て来たのは細長い形の大きなパンと、手のひらサイズのトカゲがそのままの姿で入ったスープだった。


「調理方法ダイナミックすぎだろ」


トカゲなんて死んでも喰いたくない。

なんて事はない。

金持ってる家の生まれではあるが、実はその気になれば俺は何でも食えるタイプだ。


とは言え、流石に丸々そのままの姿で入っているトカゲには食指が動かんわ。


「まあでも腹空いてるしな。残すのももったいないし、頑張って食うか」


男は度胸って程ではないが、俺は意を決して木のスプーンでスープの底に沈むトカゲを掬い上げ、思いっきり口に突っ込んだ。


「む……まあ悪くないか」


見た目から想像される様な臭みはなく、ほんのりと塩味の付いた鳥のささ身に近い触感と味だった。

骨もサクサク噛み砕けるので、結構うまい。


お次はパンを齧る。

ちょっと堅いが、まあこっちは普通だ。

千切ってスープに付けつつ、俺は綺麗に食事を平らげる。


「値段も含めて考えれば上等だな」


パンによる割増が多いとはいえ、ボリュームは十分あった。

他のメニューの半額程度の値段でこれなら大当たりと言っていいだろう。


「さて、じゃあ便所行くか」


大は別にもよおしていないが、小便はしたい。

俺は宿の親父からコルク栓の付いた瓶を買い取り、便所へと向かう。


え?

なんでそんな物もって便所に行くのかだって?

もちろん瓶に小便を入れる為だ。


小便を瓶に入れるって字面だとあれだが、俺のは物を綺麗にする効果のあるチートだからな。

ひょっとしたら何かの役に立つかもしれないので、前もってストックしておく。

まあ役に立つ云々は、自分のチートが有用な物だと思いたい願望でしかないが。


部屋に戻った俺は、小便の入った瓶をカバンにしまい宿を後にする。


「さて、街の散策でもするか」


他に急いでやる事もないので、まずは異世界の街の散策でもしてみようと思う。

昨日は夕暮れの宿探しでそれ所じゃなかったからな。


「どうでもいいけど……」


俺はチラリと視線を横に向ける。

そこには羽をバサバサさせて、ホバリングしている黒いのがいた。

そう、皆さんご存じのゴキブリだ。


部屋から出て来る時に、何故かこいつは俺に付いて来た訳だが……


「ひょっとして、俺と一緒に居たいのか?」


尋ねると、ホバリングしているGの高度が上がった。

昨日のやり取りで、上はイエスと教えてある。

つまり俺と一緒に居たいって事だ。


「……」


異世界で初ゲット?がゴキブリなのはどうなんだって気もするが、種族で差別するのはよくない。

みんな大好きポリティカルコレクト。

通称ポリコレって奴だ。


……ちょっと違うか。


「ま、いいか。でも邪魔になったら追い払うからな。そこは覚悟しとけよ」


ゴキが俺の言葉に高度を上げる。

その顔は、心なしか嬉しそうに見えた。


ま、気のせいだろうけど。

ゴキの表情の変化とか俺には分からないし。


「しかしあれだな」


通りには街行く人々の姿が見える。

当然彼らにも、此方の姿は視界に入っているだろう。

俺の顔の横で飛ぶ黒いGの姿も。


「周りの人達は全然気にして無さそうだな」


家によく出る、慣れ親しんだ存在だからあまり気にしていないのか。

もしくは――


「使い魔と思ってるか、だな。どっちかっていうとそっちぽいか」


この世界には魔法があり、その中には召喚魔法もある様だった。

まあ俺がこの世界に呼び出されてる時点で、そらあるわなって感じではあるが。


で、だ。

召喚魔法の中には、使役する使い魔を呼び出す類の物があると例の本には書いてあった。

だから周囲の人間は、俺にピッタリとくっ付いて飛ぶゴキを使い魔だと思っているのだろう。


「折角だ。名前でも付けてやるか」


いつまで一緒に行動するかは分からないが、暫く一緒にいるのなら名前ぐらい付けておかないと不便だ。


「ふむ……ところでお前ってオスメスどっちだ?オスなら上、メスなら下で」


俺がとそう問うと、ゴキが高度を下げた。

どうやら雌の様である。


「じゃあゴキミな」


ゴキミが俺の顔の周りを旋回する。

どうやら俺の付けた名前を喜んでくれている様だ。

たぶん。


しかし……死ぬ程ウザい。


ゴキに顔の周りを飛ばれるウザさは、言葉では言い表せないものがある。

つい叩き落としたくなる衝動に駆られるが、俺はそれをぐっと堪えた。


「じゃあ街を見て回るとするか」


G付きで。

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