第5話 最高だぜ


 

 西へ西へ、父の車は太陽から逃げるようにぶっ飛んでく。大きな大きな橋を上で海と空の境目を探す。

 白く巨大な雲の下で、黒く深い色と明るい青色の流れが交差する。混じっているのに境目はずっと残ってた。

 

 太陽は僕たちを追い抜いて、海の下に消えていき、じいちゃんの家に着く頃は真っ暗だ。

 隣の家より海が近く、どこにも灯りがない世界だ。ママの輪郭が消えて暗闇に引き込まれ、白いシャツだけ浮き上がる。足も頭もないお化けの正体を見た。

 いつもの夜が偽物になった。雲からはみ出た月が照らす空を見上げる。星は互いに場所を譲り合うようにまたたき合う。いつもより暗くいつもより明るい。

 とんでもない音量のカエルの歌はいつしか聞こえなくなっていた。

 玄関の灯りは盆栽の鉢に影を作り、巻き付く蛇の鱗が浮き上がる。


 毎年来てるのにいつも知らないことを知る。

 

 じいちゃんにクワガタのデカを見せたらメッチャ褒めてくれた。で、褒めた数の倍ぐらい自慢話を聞かされて、老害という言葉を実感した。父も最近自慢話が長くなってる気がする。

 じいちゃんちの銀のピカピカお風呂に入って、父の隣ですぐに寝た、明日の壮大な計画に胸はドキドキしていた。


 翌朝早く父と釣へ行く。竿にエサのカゴとちっちゃい針がたくさんつけた糸を垂らす。竿を揺する間もなく、強い手ごたえがある。2匹も3匹も喰いついては勢いよく竿を曲げる。僕は軽く踏ん張って糸を巻き取る。釣りあげた魚は一瞬、虹色に輝いて、金が混じった青い色に変わる。

 魚の群れが他所へ移る前にと急いで糸を外してはバケツへ入れる。父は大きさを見て、手のひらより小さい奴は返してあげている。あっというまに、バケツが魚で一杯だ。小さな太刀魚だけはお願いして持って帰った。こいつは銀色が強くて、とんでもなく引きが強くて、小さいのに凄い奴だった。


 じいちゃん家に帰る。どこでも変わらない、手洗い、うがい、冷たい麦茶、デカの観察。


 ばあちゃんの酸っぱいアジ料理とおにぎり作ってくれてる。じいちゃんとママは見なかったが、予定ではスイカを準備をしてくれているハズ。泳ぐ準備に旅行鞄をひっくり返して水着や浮き輪を探す。リュックに詰め込み、車に載せると 父が竿を洗ってくれてる。

「ありがとう。」

そう言いながら近づくと、父は僕の背中をたたいて

「次はいっしょに洗おうな」

と笑う。


 再び海だ。車で父と浜に行って泳ぐ。波とプカプカした感触は泳ぎにくい平泳ぎで浜辺に沿って泳ぐ、疲れた帰りは、波打ち際で砂が足をくすぐるのを楽しみ歩く。ざらついた体をシャワーで流しヒリヒリする場所を冷やすように浴びる。クーラーボックスの半分溶けたアイスを食べて、また泳いで、ばあちゃんが持ってきた、じいちゃんが育てたスイカでスイカ割りして、昼寝して…


 夕方、花火の準備にじいちゃん家に帰る。庭には立派な流しそうめんの竹が組み上げられてテンションマックスだ。疲れてスイカ割にこれなかったママのために選びに選び抜いた綺麗な貝殻を1つポケットから出して家に入る。

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