第4話 うみへ

 僕はじいちゃん家の海が好きだ。釣りをして、泳いで、アイスとスイカを食べて、虹色の貝がある。クワガタのデカにお盆休み計画を語り聞かせては内容を練り直す。じいいちゃんと父とでオンライン会議を開催し、父に教わったパソコンのわざで旅のしおりだって作ったのだ。 


コウスケの楽しそうな響きがする。

「うみ」

 この響きがコウスケのお気に入りらしいが、正体が分からない。


 他の楽しそうな響きの「スイカ」がゴハンで「父」、「ママ」がコウスケ以外とは解る。

 が、「うみ」とはなんだろう?「プール」よりすごく楽しそうだ。


 自分はこの世界の外に世界を夢想し、「うみ」とは何かを思索する。何か渦巻くような、心に刺さってるような、ゆたゆたとした感覚が底にあるのに掴めない。思い出せない。


 世界が動き出す。

 大地が揺れ、景色が流れていく、不安で体がすくむが、楽しい響きがコウスケから感じられるから信じて耐えた。


「コウスケ、酔い止めとトイレはOK?じいちゃん家は遠いからな」父は大きな旅行カバンを肩にかけ、外から2階の僕に向かって声を張る。


「飲んだで、クーラー入れんといてや」僕は頭の上で指先を合わせ大きい丸と声で返事した。


「デカも大事だけど、リュックとお供え忘れたらダメだからね」1階に降りると、ママから荷物を渡される。

 水着にタオル、サンダルに着替にゲーム、さらに図鑑が入ったリュックはズシリと重く、母から図鑑いる?と何度も聞かれた意味がいまさら解る。

 でも、置いていくとは意地でも言いたくない、僕がまだ子供だなと自覚する。

 お土産の菓子の袋を肘に掛け、クワガタのデカの虫小屋を抱くようにして家を出る。


 平べったい銀の車は、透明な湯気を出してる。僕の背と変わらない車は狭苦しく、友達の家の大きい車の方が好きだ。どうせなら、屋根がない外の風いっぱいのオープンカーなら酔うこともなく乗れそうなのに。

 車はいつも父がクーラーで涼しくしてくるが、匂いが苦手でいつも車に酔ってしまう。父もママもクーラーをつけるのを我慢してくれてる。

 こういう時にありがとうとか言ってないな、向こうに着いたら言ってみよう。

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