第2話 クワガタのデカ
暑い
今日も友達とプールに行ってきた。自転車で切る風で肩と鼻の頭がヒリヒリする。
家に帰れば、手洗いうがい、冷えた麦茶、デカの観察だ。
サナギは成虫の色みたいに深い色になってきた。僕の鼻の皮みたいにペロッとむけて、クワガタが出てくれば良いのに。
僅かに揺れるサナギをじっと眺めると、背中に白い線が見えた。目が吸い込まれて、息することを忘れて、鼻のヒリヒリも、カラダも消えてしまったように、クワガタの世界に入った。
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馬鹿みたいに脚が長くて、2本の角がへにゃっとして。目がぼんやりと光を感じる。
…解るのだ…
時が来た、全身に伸びる神経が行き届き、成虫になる。
硬くなったサナギの殻を脱ぐ。背中が破け、外の世界に接した所がヒリヒリしたと思えば、痛みに変わって全身が刺されるようだ。脱ぎ進めるほどに苦痛が走る。もがく、熱い、体の芯から自分以外の命令でカラダが突き動かされる。もう目は覚めているというのに、目醒める。ガラダの芯と自分が一つになる…
翅に立派な外骨格、目は光を捉えて世界が広がる。
幼虫の頃と全く違うというのに、驚くことはない、とてもしっくりくる。
むしろ、本当に自分が幼虫であったのか自信がない。まるで夢であったように感じる。
羽化する時の激しい衝動から一転し、染み渡るようにゆっくり穏やかに、体の隅々まで、表から裏へひっくり返るようにゆっくりと昔の自分から今の自分に置き換わっていく。
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僕が父とママに気づくと。みんな、すっごい笑ってた。
僕は、クワガタのデカがデカになったことをメッチャ喋って、喋り足りなくて、ご飯を食べながら喋って話して考えて、デカのご飯のことに気づいて、父とデカのご飯について調べて準備した。
ママはずーっと僕とデカの写真と動画を撮っていた。ムシ嫌いなのにね。
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