第4話 破壊された心。そして、それを癒すもの
前話の頃、学校に行っても楽しさを感じる事が少なくなった。学校に行きたくないと思ったこともしばしば。しかし、中学校生活において皆勤を取っていた。三年間の皆勤を取るために登校し続けた。
だけど、学校に行けば例のヒト達に避けられる、陰口言われるだけ。
無視すれば良いのでは?
と感じた人がいるなら、全くのその通りだと思う。しかし、無視をするのは当時の僕には不可能だった。何故なら、相手を問わず何かコソコソと話しているのを見ているだけで、「また陰口言われてそう」と勝手に思ってしまっていたからだ。話している内容がほんとは違うとしても全員が敵に見えてしまう。この苦しみを相談できるクラスメイトはこの時は思いつかなかった。悲しいよね、相談できる人が思いつかないなんて。だから心に溜め込んでしまう。
確かこの頃だったと思う。心が限界を迎えたのは。
気が付けば感情の上下が薄くなり、心に占める感情はマイナス感情が大半だった。こうなってくると、誰かと話す元気が無くなり、席にじっとうつむいて座っているだけだった。そもそも一年の時に吃音を笑われたことから始まった一連の出来事。それも相まって無口一歩手前なところまで来ていた。
何をやるにしてもボーっとしていることが多かったが、先生の指示には動けていた。これらは二年の前期の話であって、早く後期にならないかなとずっと隅に考えていた。もうこの状況で生活するのは無理。早く班変わってほしい。だからと言っていじめが解決するのかと聞かれたらノー。その場しのぎになってしまう。でもこの心の状態ではどこで判断を間違えるのか分からない。仕方なく何もしないで、彼女らの嫌がらせを受け続ける。ダメージはだんだんと蓄積されていく。自分でも心が少しずつ死んでいくのが分かった。比例して目も死んだような目になっていく。負のスパイラル。
(あぁ、心の次は体かな……)
なんて、頭の片隅をよぎったことだってある。大げさかもしれないけれど、死にたい、消えたい、という事。
教室に居るのが億劫だった。逆に図書館や部室に居る時の方が落ちつけていたと思う。
夏休みが終わり、体育大会が終わり(体育大会でも嫌みの一つや二つ言われた)、二年生後期に入ったところで生活が良い意味で一変した。
先に言おう。今まで楽しくないと感じていた教室で楽しいと思えるようになった。それが皆にとって普通なことでも、僕にとっては少し大げさに言えば幸せな事だった。
後期に入って、あの憎き彼女らと距離を置くことが出来た。根本の解決にはなっていないがひとまず一安心。
班が変わり、班員を見てみたが、一人(小学校からの友達)を除き全員初見さんだった。最初は警戒心を全開にして接する。
僕の通っていた学校では授業の時、三、四人で固まって小さな班を作り、そのメンバーでお互いに分からないところなどを教え合う形で行われていた。それによって、強制的に班員と接しているうちに、この班員は信じられると判断して警戒心を緩くした。僕は男子二人、女子一人の三人班だった。僕含め三人は全員同じ小学校だった。そのせいもあってか、すぐに仲良くなることが出来た。この中では少しぎごちなかったが笑顔を向けることが出来た。
しかし、それ以外では暗い表情のまま。この時の心はほんの一部しか救われてなかった。
それでも、この班と過ごしているのは楽しかった。教室で楽しいと感じることが出来るようになったのはこの班のおかげだった。ちなみに僕の横の席は班長の女子生徒(以降Kさんとする)。その横は小学校からの友達。お互い自然と話せる仲にまでなった。
(結果として、中学卒業の際、誰とよく話していたかと思い返すと、五本指に入るくらいそのKさんと話していた。)
そのKさんは常に明るく面白い人で、僕含め授業の三人班ではよく笑っていた。時にはツボにはまることもあった。この時だけは苦しみを忘れることが出来た。そんな毎日が続けばいいのにと思えた。じゃれ合いやからかい程度のスキンシップはよくあった。それが楽しいと思えるほど僕はこの班を気に入っていたし、単純だった。
それがある思いもよらないことで無くなるとは思わなかったけれど。
ある日の朝、暗い状態で教室に居たら、それが目に入ったのか担任の先生に別室に呼ばれた事があった。別室で事情を聴かれ、素直に答えた。担任の先生は静かにそれを聞いてくれた。アドバイスなど色々言ってくれた。それで幾分心は救われたけれど、それでも苦しいものは苦しいから涙は流してしまう。その後、軽く雑談を混ぜてくれて落ち着いて授業に戻れた。この先生には今でも感謝している。
また、今日はどんな面白い事が起きるのかと毎日考えながら登校していた。それがものすごく楽しかった。
けれど、まだ心の傷は癒えていない。そもそも癒えるものだろうか。
時は流れて二月末、新型コロナウイルスの流行に伴った一斉休校が決まった。この報道がされたときは気が気でなかった。いきなり明日から休校ですと言われたのだ。ショックが大きかった。
しかし、後になってこの休校も少なからず意味があったと今でも思う。
楽しさと苦しさのあった二年生の生活は国の力によってあっけなく良くも悪くも終わりを告げた。
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