21.お似合い

 めちゃくちゃって、一体何をするつもりなの……。


 額に当てられた唇から漏れる湿っぽい熱に、頭の中のコンピューターは熱暴走を始める。


 目を見たら襲われちゃうんだ……。


 口に溜まった熱い唾液を飲み込む。


 そんなのだめ……絶対だめだよ……!


 間違っても目を見ることがないように結奈がまぶたをきつく結んで固まっていると、高比良くんの唇と手は意外にもすぐに離れていった。



 よかった、ようやくこれで一人になれる。


 これでもう、頬にキスされることもない。


 いやらしく指を絡められることも。


 強引に腕を引かれることも。


 口の中を弄られることも……。


 ……。



「責任取ってよ……」



 うつむいたまま高比良くんのシャツの裾を摘む。


「もう十分めちゃくちゃだよ……責任取ってよ……!」


 高比良くんは何も答えてくれない。


 だから顔を上げ、潤んだ瞳で訴えた。



「私を一人にしないでよ……」



 高比良くんは大きな瞳に怪しい光を散らしていた。


「そんな顔もするんだ……いいね、そっちのほうが俺好みだよ」


 後悔する暇もなく、甘美な香りが結奈に覆い被さる。


 もう、高比良くんからは逃げられない。


 なぜかさっきより冷たくなっている指に、耳の輪郭を上から優しくなぞられる。


 だめ……声が出ちゃう……。


 身体を震わせて我慢していると、敏感になった耳をぬるい吐息がくすぐった。


「安心して……責任取って骨も残さず食べるから……」


 耳を離れる吐息は迷いを見せずに唇へ向かっていく。



 そういえば今塗ってるリップ、優太くんとのデートのために買ったんだっけ……。


 あと一週間だった。


 あと一週間で一ヶ月の記念日だった。


 こんなはずじゃ、なかったんだけどな……。



 高校生らしいキラキラとした想い出を見つめる結奈の唇が、一瞬にして情欲に塗れる。


 初めてはもっと爽やかで、もどかしいものだと思っていた。


 こんなキス最低だ……最低なのに……。


 心とは反対によがってしまう身体。


 高比良くんはそのことを気づいているのか、笑みをこぼしながら腰に回した手で力強く私を抱き寄せた。


「かわいいね……」


 悪魔の甘い囁きに、思わず舌を伸ばしてしまう。


 いやらしくてみっともない、最低なキス。


 火照った頬を冷たい涙が伝う。


「やっぱり結奈ちゃんには、俺がお似合いだよ」


 最悪の褒め言葉をどうもありがとう。


 おかげで自分を嫌いになれる。


「ねぇ高比良くんもう一回してよ、今の馬鹿みたいにエロいキス」


 私の言葉に高比良くんは目を丸くした。 


「結奈ちゃん、そんなこと言う子だっけ……?」


 なにをそんなに驚いているの?


「それぐらい言うに決まってるじゃん、高比良くんにお似合いの最低な女なんだから」


 高比良くんは声を出して笑った。


「結奈ちゃんは本当、最高にいい女だよ」

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