10.成長期
「いらっしゃいませー」
暗い店の奥から眼鏡をかけた小さいおばさんがニコニコしながら出てきた。
「あらー彩人くんじゃない、また大きくなってー」
はぁ!? 彩人くんって呼んでいいのは望愛だけなんですけど! 誰なのこのおばさんは!
「あら、隣の子は彼女? えらい綺麗な子だねー」
「ありがとうございますー!」
なんて人のよさそうな、おばさまなの? やっぱり歳を重ねた人間は見る目が違うのね。
「今綺麗にしたから、奥のテーブル座ってくれる」
「はーい、ほら彩人くん行こ?」
当たり前のように彩人くんの腕に手を回す。
「おい、店の中ではやめろって……」
「何もしなくても彼女に見えるんだから変わらないでしょ?」
そのまま彩人くんを強引に引っ張り、一番奥のテーブルで向かい合わせになるよう座ると、すぐにおばさんが手書きのメニュー表とお冷を持ってきた。
「えー結構種類あるねー、どれ頼むか悩むなー」
グラタンいいなー、フーフーして冷ますの可愛いってパパに言われたことあるし、あとピザも自然にシェアできるから頼も、あーサラダも女子力アピールに使えるなー。
「そうだここ、どれも結構量あるから頼むなら一品にしたほうがいいよ」
望愛の考えてることなんでわかったの? 以心伝心、相思相愛ってこと?
彩人くんにそう言われてしまっては、あれこれ頼むわけにいかないので、素直に一番食べたいものを頼むことにした。
「じゃあ、このチキングラタンにする」
「おっけ……すいませーん注文お願いしまーす」
「はーい」
彩人くんがすぐそばのカウンターで休んでいた、おばさんを呼ぶ。
「チキングラタンと、エビピラフの大盛り、あとサーモンフライお願いします」
「はーい、ちょっと時間かかるから待ってねー」
注文をメモすると、おばさんはそそくさと厨房に消えていった。
「彩人くん一品じゃないじゃん」
「俺とお前じゃサイズが全然違うだろ」
線が細いので忘れがちだが、彩人くんは男子の中でも大柄だ。
「そういえば彩人くん身長いくつなの?」
「えーっと、180……2とか?」
「いいなー、男の子だから来年はもっと伸びてるかもね!」
「来年ね…………それまでのびないといいけど」
彩人くんの顔つきが少し変わった。
「どういうこと? もう伸びたくないの?」
「まあ、いろいろ疲れるからね……」
あれ、なにこの雰囲気……望愛なにか聞いちゃいけないこと聞いちゃった? とりあえず話を逸らさないと!
「望愛も彩人くんと話してると首がすっごい疲れるよー!」
「たしかに……俺もお前と話してるとすごい疲れる……」
「ちょっとどういう意味!」
「見下した相手と話すのは大変なんだよね」
「だからどういう意味!」
なぜかこういう時だけは息がぴったり揃う。
「俺も首が痛いってことだよ」
「本当にー?」
よかったー、いつもの彩人くんだ。
望愛は意地悪で優しい彩人くんが大好きだった。
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