09.飯塚望愛
望愛ちゃんついにやりました!
彩人くんとのデートを勝ち取りました!
夏休み中全然メッセージ返してくれないから、望愛のこと忘れたんじゃないかと思って心配してたけど、会えない時間が愛を育てたってこと?
これでみんなに陰口言われたり仲間外れにされた日々も報われます。
みんなは彩人くんが二人きりだと実はお喋りなことも、すらっとしてるのに意外と腕は筋肉質なことも、なーんにも知らないんだろうなー。
望愛がみんなの分も幸せになるから安心してね!
「ね? 彩人くん!」
「なんだよ……」
残暑の日差しに目を細めた気だるげな返事。
「お昼どこで食べよっか?」
「場所はもう決めてる、あと暑苦しいからいい加減離れろ」
またまたそんないじわる言っちゃって、学校出た時からずっと望愛を日陰に入れてくれてるの、ちゃーんと気づいてるんだからね!
「だめー! だって望愛が離したら彩人くん、いっつも逃げちゃうじゃん」
「別にどこにも行かねーよ……」
聞きました? もうどこにも行かないですって、キャーッ! さすが望愛の王子様! もう一生離さないんだから!
「お前こそいつも金欠とか言ってるけど、会計前に逃げんなよ?」
「わかってないなー、望愛が彩人くんから逃げることなんてあるわけないじゃん!」
たしかに化粧品と洋服の買いすぎで、お金は全然ないけどさ……。
「ふーん、言ったな?」
彩人くんが望愛の目を見てニヤリと笑う。
えっやば、今笑った? なに今日の彩人くんめっちゃデレるじゃん可愛いー! 望愛もサービスしてあげよー。
「おいバカ、急にどうした」
「望愛の身体柔らかくて気持ちいいでしょ?」
彩人くんの腕を胸に挟むようにして、両腕でギューッと抱きしめてあげる。
「お前やっぱすごいな……」
「でしょー?」
「よく恥ずかしげもなくそんなキモいことが言えるなって意味だよ」
笑顔も当然最高だがこの呆れ顔もまた、たまらなく愛おしい。
「もーそんなこと言って、本当はまんざらでもないくせにー」
あー幸せ、このまま目的地に一生着かなければいいのに。
「あれ、そういえばここどこ? 学校の近くにこんなとこあったっけ?」
「裏道通ってんだよ、学校のやつに見られたら面倒だから」
さすが彩人くん、急なデートでもしっかりエスコートしてくれます。
「ほらもう着くぞ、あの看板のとこ」
住宅街の中、彩人くんの指差した先には『キッチンアンドコーヒー』と書かれた看板が出ていた。
「へぇー、なにここ喫茶店?」
窓から見た店内は営業しているのか不安になるほどの暗さをしている。
「まあどっちかというと洋食屋かな、別に嫌じゃないだろ?」
「うん、望愛こういうお店好きだよー」
「じゃあもう店入るから腕離せ」
「はいはい」
年季の入った木製の扉を彩人くんが開けると、軽い鈴の音が静かな店内に響き渡った。
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