追随④

 そのまま時間が過ぎて二人は卒業。すでに推薦による合格が決まっていた女は大学へ進学した。

 Aの姿を目にすることも叶わなくなった女の大学生活は昔の女に逆戻りしていた。

 サークルに入り、アルバイトをして、休日には友達と何かにつけて女子会かサークルの飲み会。友達とは流行りのアプリをやったり、その話をしたり、ドラマの話をしたり、他人の悪口を言ったりと、平凡な女子同士の会話を繰り広げる。

 その全ては周りがやっているからという理由でしかない自己の意思も面白みもないモノトーンな生活である。

 ただ周りに流されるがままに就活をして、内定を受理した女は大学で四年間過ごした後、卒業、就職をする。

 典型的な女子大生のキャンパスライフを送った女だったが、一つだけ、恋愛だけは一切しなかった。

 女の頭からAのことが一日たりとも離れることがなかったからである。

 Aを目にすることもできなくなったら、Aのことを自然と忘れるようになると女自身は思っていて、忘れようという決意も固めていた。

 それでも、女は忘れることができなかった。

 毎晩毎晩、一人暮らしの部屋の中でAのことを見なくとも、Aと別れたあの日がフラッシュバックしてしまう。

 その度に女はあの日のことを悔やんだ。

 なぜ自分はあんな言葉をかけてしまったのだろうか。お世辞でも演技でも虚言でもAのことを否定するべきではなかった。

 それに、その後からでも充分に反論の余地はあった。まだ高々十数年しか生きていない若造のくせに人生の全てを悟ったような口を利いて自分の将来すら断言するように予言することは道理に合わない。人生を送る意味が分からないのなら、その答えを見つけ出すためにこれからの未来を生きていくのも悪くないではないか。

 今になって次から次へと説得の言葉が湧き出てくる。

 女は毎晩のように泣いた。

 あれほどまでに助けると、助けるから話してみろと自分から懇願しておいて、いざ打ち明けられたら何もすることができなかった。

 そんな自分の不甲斐なさに、口だけの薄っぺらさに女は毎晩打ちひしがれた。

 結局、女にはAが必要だった。女にとってAが人生の全てだった。

 Aが離れた今、女は何でもない人間になった。

 Aがいたからこそ、女は唯一無二の存在になることができていた。

 そんなことを今更ながらに痛感させられた。

 民間企業に就職をした女だったが、勤務して2年ほどで会社は倒産し、女は失業した。

 人生の窮地に立たされた女はこのとき、とある衝動に駆られた。

 Aにもう一度会いたい。

 会ってあの時に伝えられなかったことを伝えたい。

 しかし、Aに会う方法が思い当たらない。

 疎遠になっているため連絡手段はない。頼れる高校時代の友人も一人もいないため、Aの最終的な志望校も分からない。

 とにかく手がかりが皆無に近かった。

 Aは人生に失望し、それを解決してもらう相談相手として一番の理解者である女を選んだが、その女でも全く役に立たなかった。人生に希望が見出せないままAはどんな道を歩んでいったのか。女はそれを考えた。

 一番考えられることとして自殺が浮かんだ。それは最も考えられるが、最悪の想定でもある。ひとまず除外する。

 女に悩みを打ち明けた後も何食わぬ顔で学校生活を送っていたのだから、今でも平然とした顔で普通に生活を送っている可能性も高い。

 とにかく、女には協力者がいなかった。家族も父親だけで、父親は放任主義だったため、女は自力でこの状況を打破し、道を切り開く必要があった。

 かくして、女は果ての見えない人捜しの旅路に立つこととなったのである。

 各地域で通行人全てを凝視して偶然にもAと出くわさないかと期待する日々を過ごしてきた。不審な目で見られることも見られた側からクレームを飛ばされたこともあったが、それでも女はめげずに人の顔を凝視し続けた。

 女はAを忘れることを諦め、Aを求め続けることにしたのである。

 もちろん、情報ゼロでAがすんなりと見つけられるはずもなく、未だに見つかってはいないが、優しい住人に支えられ、己で己を奮い立たせ、女は一生のうちに終わる保証のないこの旅を続けていった。

 だが、探し続けること約十年。その旅の終わりは突然訪れた。

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