第9話 なら入っちゃえば?
状況を確認しつつ、この先について少し話した。
「このまま時間切れを狙う場合、連絡がつかなくなる」
「そうなるとシェルガイで戦争が起きる」
「今のままだと連絡がつかないわね」
「なんとか帰還しなければならないのに…」
ここであんこが、「ねえ、ゲートって入ればシェルガイにいけるの?」と質問をする。
「はい。特に何も必要ありません」
「なら入っちゃえば?」
「あんこ?」
「待ってても迎えなんて来ないんだったら、勝手にゲートに向かって行けばいいんだしさ」
かのこは「それよ!戦争回避は大事よ!戦争は終わってからが大変なの。だから始める前にやめるのよ」と握りこぶしで燃え上がって、雲平は心配な気持ちで「ばあちゃん…」と言った。
この後は早かった。
かのことあんこの希望に雲平が調整をしていく。
「えっと、途中までついて行って、話を合わせるのがあんこで…」
「うん。今調べたけど都内のゲートって結構あるし、寺社仏閣とか大きな公園にあるのはなんだろね?」
「ばあちゃんは、セムラさんが出て行っちゃった事を警察に話す人で…」
「ええ、最初はあのシェルガイの人に電話をしますから大丈夫ですからね」
「俺がセムラさんをゲートまで案内する」
「雲平さん…よろしいのですか?」
雲平は頷いて、あんこに「都内のゲートはどことどこ?」と聞く。
「結構あるよ。飛鳥山公園、靖国神社、品川公園、夢の島」
「ここからなら飛鳥山公園か…」
雲平とあんこが行き先を思案する中、かのこはセムラの手を取って、「さあ、用意をしなさい」と声をかけて洋服と一緒に買ったリュックサックに、シェルガイの服を入れて「シェルガイのお洋服は目立ちますから、ここにしまっておくわね」と言って渡す。
セムラは姿勢を正して、「かのこお婆様、ありがとうございました」と挨拶をすると、かのこは初日の豹変ぶりが嘘のように、優しいお婆ちゃんの顔で「良いのよ。10日間楽しかったわ。また来てね」と言った。
セムラが「はい」と返事をして着替えると孔雀トレーナーで、雲平から「セムラさん、それはダメだよ」と言われてしまう。
「雲平さん?なんでですか?神の服ならご加護が…」
「目立ちすぎてすぐに見つかります」
「ですが、商店街のご婦人達は皆魔獣服ですよ?」
「それは土地柄です。ゲート付近はあんこのような服装が多いから、着替えてください」
セムラは仕方ないと言って、あんこと買った今風の服を身に纏うと、もう一度かのこに挨拶をしてから飛び出して行った。
あんこは「私は途中までついて行ったらおばあちゃん所に戻ってくるね」と言って雲平とセムラの後をついていった。
ここから先は安倍川かのこの体験になる。
かのこはわざとらしく、黒電話からバニエの電話番号に向かって電話を鳴らす。
出ないで欲しい気持ちで鳴らすと、願いが叶うようにバニエは電話に出ない。
だがこれは演技だからそのままではいけない。
次は指定されたシェルガイの人間が居る番号にも電話をしたが、出ない上に、出てもすぐに切られてしまう。
かのこは「ざまあみなさい」と呟いて、ようやく派出所に電話をしてシェルガイの担当に電話が繋がらない間にセムラが居なくなったと言って、バニエから電話をさせろと捲し立てる。
派出所の警察官も苦戦したのだろう。
ここまでで既に1時間以上過ぎていて、ようやく連絡がついたようでバニエからかのこの元に電話がかかる。
この頃にはあんこも戻ってきていて、「順調だねばあちゃん」と言っている。
ニコニコしながらも怒鳴れる辺りが、人生の経験がもたらした事なのかもしれない。
顔は悪戯をする子供のような顔なのに、「貴方達がセムラちゃんを放っておくから、大変なことになったわよ!どうしてくれるの!」と怒鳴り声を上げる。
この言葉にバニエが「私も忙しかったのです!セムラ様に何がありました?」と返すと「セムラちゃんは早くシェルガイに帰らなければならないって言って、家を飛び出してしまったの!ウチの雲ちゃんが追いかけて、お友達のあんこちゃんも追いかけたの!セムラちゃんもですけど3人に何かあってみなさい!許さないから!」とかのこは怒鳴る。
「そんな…どこへ向かったかとかは…」
「…知りませんよ!」
そう言いながらかのこが合図をすると、あんこは「おばあちゃんただいま!」と声を張る。
「あんこちゃん!雲ちゃんとセムラちゃんは?」
「おばあちゃん相手誰?シェルガイの人?」
かのこは「そうよ。何にもしてくれなかった人!」と怒ると、あんこは受話器を取って「何やってたんですか!?」と怒鳴りつける。
バニエは「申し訳ないですが、仕方のないことなのです」と謝りながら、「今シェルガイの方もごたついていて、対処に追われていたのです。それでセムラ様は?」と聞いてくる。
「そっちに直接向かうって言って電車に乗ったよ。もう30分くらい前だから、後20分もしたら着くと思うけど、そっちに居るの?」
「ええ、戻ってきたのでおります。ではこちらも待ちます」
「そうしてください。地下鉄だから雲平は電話繋がらないかも知れないけど、連絡きたら言いますから電話出てくださいね」
「わかりました。よろしくお願いします」
こうして電話を切ると2人でハイタッチをして笑う。
「ふふふ。楽しかったわ」
「本当だね。セムラちゃんは無事に帰れるかな?」
2人で駅の方を見て「そうだと良いわね。まあ雲ちゃんも男の子ですからやれますよ。それで何処に向かうの?」とかのこが聞く。
あんこは「んー…、なんか雲平の奴、多分飛鳥山公園はウチから近いから待ち伏せとかで狙われるから、靖国神社に向かうかもって言ってたよ」と説明をした。
「成程、じゃあ夢の島ね」
「え?」
「やだ、雲ちゃんならここが盗聴される事も考えてるわよ」
「マジで?私も信用されてないの?」
かのこは嬉しそうに「ふふふ。あの子は皆を信じて、皆を信じませんよ」と言って笑った。
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