第3話 セムラ・アフォガートです。

祖父の墓に手を合わせた雲平が帰ろうとした時、墓場全体が血のように真っ赤に光った。


雲平は嫌な予感に襲われていた。

散々特集でみたアナザーゲートの光。

突発的に生まれたゲートからは、野良の魔物が出てくる。魔物はすぐに警察に知らせないとならない。


警察ならば、訓練を受けていて魔物とも戦えるし、特殊部隊、シェルガイのハンターで構成されたプロ集団であれば、大抵の魔物にも対応が出来る。


雲平はスマホを取り出したが、圏外で通報する事が出来なかった。


「確かゲートのそばって、一時的に電波が死ぬんだっけ?」


避難訓練で教わった事を、思い出して苦笑した時、悲鳴が聞こえてきた。

悲鳴は女性のもので、仮にゲートから出てきた魔物に出くわした場合には、高確率で死ぬ。


雲平は引きつった顔で「墓場だから埋葬の心配は無いかな?」なんて軽口を叩いてみたが、口はカラカラで手は汗ばみ足は震えていた。


だがやはり見捨てられるものではないと雲平は走っていた。

そう広くない墓地だが、何区画か動くと赤い光の渦が見えた。


それはやはりアナザーゲートだった。

そしてゲートの足元では女の子が倒れている。

周囲に魔物の姿は見えない、


女の子の髪は明るい茶色で、服装はファンタジー盛り沢山の薄着スケスケで目の毒だ。

だがそうじゃない。

とりあえず状況確認だ。


雲平はそう思って女の子に声をかける。


「大丈夫ですか?」


少し揺すってみると、「ん…」と聞こえてきたので安心をして、ゲートの前から移動させようとした所で、女の子は目覚めて「誰!?」と言って右手をかざしてきた。


この右手に何があるのかわからない。

ファンタジー世界から来たのだから火の玉の一つも飛んでくるかもしれない。


雲平はホールドアップしながら、「君が倒れていたから声をかけました。ここは日本で…えっと…お墓です。俺は祖父のお墓参りの帰りでした」と答えると、「日本…?まさか地球ですか?」と言われた。


雲平がそうだと答えると女の子は慌てて、「シェルガイに帰らないと!私が帰らないと!」と言って、先程より縮んだゲートに走り出そうとした。


「危ないですよ!」

「行かなければ!帰らなければ!」


女の子は必死にゲートに向かうが、雲平はそれを阻止して「落ち着いて!日本にもゲートはあります!あなたが迷い人だと、警察に言えば保護をされてすぐに帰れます!とりあえず警察に行きましょう!」と言って、ようやく女の子は落ち着いて雲平の顔を見て「はい。ありがとうございます」と言った。


雲平は「とりあえず」と言って、名前を聞くと「セムラ、セムラ・アフォガートです」と名乗られたので、「セムラさんはどうしてこちらに?」と聞くとセムラはハッとした顔で周りをみると、「特使として帰る途中にゴブリンに襲われて、崖から滑落と共にゲートに飲まれてこちらの世界に…倒れていたのは私だけでしたか?」と聞いてきた。


「今見た感じではセムラさん1人でしたよ?」

「ですが確かにゴブリンが…」


セムラがそう言った時、雲平の背後からガサガサと物音がした。


物音の方を向くと、小学校低学年くらいで濁った緑色の体表をした魔物がいた。


「ゴブリン!?やはり共に転移していた!」


慌てるセムラの声を聞きながら、ゴブリンをみると口元には饅頭だろうか、誰かが持ち帰らなかった御供物の食べカスが付着していた。


「ああ…、お菓子のお陰でセムラさんは無事だったと…」


雲平は軽口を叩きながらゴブリンを見て、なんとか距離を取って逃げたいと思っているとゴブリンは雲平とセムラを見て舌なめずりしている。


「まだ腹ペコか……。セムラさん?逃げますよ。立てますか?」

決してゴブリンから目を逸らさずに聞く雲平だったが、セムラは「すみません。無理です。足を捻ったのか痛みで立てません」と返してくる。



戦うしかない。

これで雨の予報でもあれば傘の一本もあったが武器はない。


雲平は辺りを見渡して武器になりそうなものを探すと、墓石に備え付けられた卒塔婆を手にした。


卒塔婆の木は柔いが、無いよりはマシだった。

ゴブリンは鋭い爪こそ脅威だったが、それこそ見た目通りの力しかなくて卒塔婆でもなんとかなる。


今は3本目の卒塔婆が折れたが関係ない。


「まだ卒塔婆はある!」


雲平は卒塔婆を次の拾うと一気に勝負に出た。

左手をポケットの中に入れるとスマホを取り出す。


脳内では祖母かのこの、「雲ちゃんならその すまほ でなんでもやれんでしょ?私になんでも出来るから持てって言ったのだから、魑魅魍魎くらい倒してきてね。」と言われた言葉が再生されている。


「ばあちゃん…スマホは凄いんだよ」

雲平はライトを起動すると、ゴブリンに向けて放ち目潰しを行う。


突然の眩しさに目が眩んでジタバタとするゴブリンの脳天に、唐竹割りのように卒塔婆を放つとゴブリンは動かなくなった。


雲平は心の中で、フィニッシュブローは卒塔婆クラッシュかな?と思いながらセムラに、「何とかなりましたよ。とりあえず保護をしてもらいましょう」と手を出して立たせると墓場を後にした。

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