side SS:続々々・とある少女と合コンパーティ

 嫁。

 嫁?

 嫁……。

 嫁。

 嫁、かぁ。

 お嫁さん。

 はぇぇぇ、西園寺さんってしゅごいんだなぁ。

 

「ねぇよしのん。お嫁さんだって……すごいねぇ」

「うん、そだね。ところでこれ五回目だけどそろそろ戻って来れるかな?」

「……あえ……あ、あ! だ、大丈夫れす!」


 ……ふぅ。危ない危ない。

 度重なる衝撃の展開に、つい意識がどこか彼方へと飛ばされてしまった。

 あと少しで女の子としてはあってはいけない顔を晒していたかもしれない。

 油断大敵。ダメ絶対。


「ゆうかっち。よだれが」


 おっといけない。

 

「いやーしかしモテるねー西園寺くん。潤くんにも負けてないよー」

「ほんと。そりゃあ私たちなんて興味ないよね」

「あはは、いやそんなつもりじゃないんだけど」


 ほんとそれだよ。

 さすがのみっちゃんもツッコまざるをえなかったのか西園寺さんに絡み始める。

 そんな風に自然と会話出来るみっちゃんの様子を羨ましく思う反面、どんな徳を積んだらそんな人生を歩めるのかってくらい驚愕の光景を目の当たりにしたことで、なんだか私の緊張がだいぶほぐれてきたような気がする。

 ものっすごく距離の近い同級生(友達?)と、将来のお嫁さん(異国ロリ)。

 もうお腹いっぱい。むしろ過食気味なくらいだけど 創作の世界に生きる私がこれ以上驚く要素など何があろうというのかぁ!

 ふふっ、そうだなぁ――例えば幼馴染なんて架空の存在でもいない限り心はこれ以上揺らがないでしょぉ。


「――お待たせしました。ご注文を承ります」


 わぁ、めっちゃ綺麗な金髪の女の子だぁ。

 


 ******

 


「へー。幼馴染ってこの世に存在するんだぁ。しかも金髪美少女。人生ガチャ成功じゃないですかぁ。しゅごいなぁ」

「お、おう。てか三枝さんってこんなキャラだったっけか」

「あー、うん。割とこんな感じだよー。可愛いっしょ」


 はふぅ。世の中は広いんだなぁって感じだよぉ。

 小説の中に存在する理想の人生をまさかリアルで体現する人がいるなんて、もはやなんと言葉にすべきかが分かりませんな。

 いやしかしこんなトンデモ人物でも趣味の合う貴重な人間であることに変わりはない。

 私なんかとは住む世界の違う天上人なのは重々わかったけど……でもでもぉぉぉ!


「てかもうこんな時間か。なんか俺ら食って飲んで喋ってばっかりだったな。……なぁ潤。いまさらだけど合コンってこんな感じでいいのか? いや楽しかったけどよ」

「うん。それならいいんじゃないかな。みっちゃんとよしのん、ゆうかちゃんも今日はありがとね。お話しできて楽しかったよ」


 あれ、もうそんな時間!?

 カバンからスマートフォンを取り出して時間を見てみれば、たしかにここに来てから結構な時間が経過していたことに気がつく。

 到着時は気持ちが沈んだ状態からの参加だったけど、料理もドリンクも美味しかったし、こうしてみると案外楽しい時間を過ごすことが出来た気がする。

 まぁ半分くらいは意識が曖昧だったような気もするけど。

 

「んー全然ダイジョーブだよ! あたしらも結構楽しませてもらったし。ねぇよしのん?」

「そうだね。今度は一緒に遊びに行くのもいいかもね。どんな風に笑わせてくれるのか期待しちゃうよ」

「……なぁ潤。本当にこれで良かったんだよな? 合コンってこれであってるんだよなぁ? 相手の感想こんな感じですけど!?」

「そうだね。まぁ女の子の前でそういう反応は見せない方がいいんじゃないかな」


 うん。楽しかった。

 でもそっか。これで終わりかぁ。

 私は自分が思っていた以上に寂しさを感じていたことに内心で驚きつつ、一方でやはり勇気が持てない自分自身の残念さに気落ちしていた。

 多分これがみっちゃんやよしのんだったら、さらっと連絡先なんか聞いちゃったりするんだろうなぁ。


「ねぇ、三枝さん」

 

 そんなことを考えながらやや自嘲気味に笑みを浮かべてみんなの会話に耳を傾けていると、予期せぬタイミングで彼から声をかけられる。

 

「三枝さん。今日はありがとね。まさかこんなところで趣味の合う友達が出来るなんて思わなかったよ」

「え? と、友達、ですか?」

「うん。あ、僕はそう思ってたんだけど違ったらごめんね」

「い、いえ! わ、私も小説のお話が出来て本当に嬉しかったです!」

 

 ふわぁ……思わず大きな声を出しちゃったよぉ。

 みんななんだかニヤニヤした顔をしてるし……は、はずかしぃぃぃぃ!


「あ、そうだー。ねぇねぇ西園寺くん。なんやかんやあってあんまり君とお話出来なかったしさ。また近いうちに遊びに行こうよ。買い物とかカラオケとかさ。ゆうかっちもそう言ってるし」


 み、みっちゃぁぁぁん!


「そうそう。私ももっと西園寺くんとおしゃべりしてみたかったんだよね。ゆうかっちもそう言ってるし」


 よっ、よしのおぉぉん!

 

「うん。僕は別に構わないけど。三枝さんもそう言ってくれてるのかな?」


 さ、西園寺さぁぁぁん!


 ……………………えへへ。



 ******




 あれからお店を出てしばらくした後、現地解散の流れで話が進んだ。

 ただ、私たち三人が電車に乗るために駅へと向かう話をしたところ、男の子たちが見送りに付き合ってくれると申し出てくれた。

 聞いたところによれば西園寺さんたちは三人ともが歩いて帰れる距離に住んでいるとのことだったけど、夜道は危ないからと心配してくれたらしい。

 これで多少の下心があれば断りを入れたかもしれないけど、こと西園寺さんと伊南さんに関しては信頼しているというか、本心で気にかけてくれているのが伝わってくる。東間さんはまぁ……うん。多分心配してくれてるんだよね。


「そうだ。三枝さん、これ良かったら」


 そんな男の子たちとの帰り道。隣を歩いていた西園寺さんが一枚の紙を手渡してくれた。

 これなんだろう。コースター? そんな風に首を傾げながら裏面を見てみると、そこにはメールアドレスらしき文字列が見受けられた。

 ………………………………メールアドレス?


「さ、さ、さ、西園寺さぁぁぁん??」

「それ僕の連絡先。今時メールアドレス? って感じかもしれないけど。――SNSはちょーっと危ないというか、うん」

「え、え、で、でもいいんですかぁ? 私、本当にメールとかしちゃいますよっ!」

「あはは。むしろそうして欲しくて連絡先を渡したつもりなんだけど」


 ふわぁ。嬉しい。


「いや本当に嬉しくってさ。趣味の合う人ってやっぱり貴重で」

「は、はい! 分かります! そ、その私も今日はすっごく楽しかったです!」


 そんな私の言葉に、そっか良かったと西園寺さんは笑顔で返してくれる。


「あの、私またここに遊びに来ますっ! その時はぜひ、またご一緒に」

「うん。喜んで」


 あぁ、本当にこの人はいい人だ。

 みっちゃんとよしのんに出会えた時と同じくらい、私は西園寺さんと仲良くなれたことに奇跡を感じていた。


「……そういえば」

 

 ふと前にテレビか本か、何かで見たフレーズを思い出す。

 

 ――魔法とは奇跡であり、願いである。

 

 一緒に過ごしてみても、私には西園寺くんたちが私たちと何かが違うなんて感じることはなかった。

 世間では『魔法使い』に偏見を抱く人もいるみたいだけど、一体彼らの何が忌避されるというのだろうか。

 あるいはともに過ごすことで私もまた何かを感じる時が来るのかな。

 でも一つ。西園寺くんは素敵な魔法を私にプレゼントしてくれたことに間違いはない。

 そういう意味では、彼は間違いなく私の魔法使いなのだろう。


 ******

 

 

「あー美味しかったー。またあのお店に行きたいねー」

「……うん。そうだね」

「ふふ。ユウカッチ、良かったね」

「……うん。えへへ」


 揺れる電車でみっちゃんとよしのんに挟まれて、私は大切な貰い物コースターを抱きしめる。

 まだ次に会える日は決まってないけど、とりあえずオシャレについて勉強してみよう。

 あとはもっとお話しできるようにするにはどうしたらいいんだろう。

 やっぱり慣れ、なのかな。

 うん。これはみっちゃんとよしのんに相談してみよう。

 でもまずは家に帰ってからすぐにしてみたいことがある。


 ――今日はありがとうございました。今度はぜひ私のおすすめの本を紹介させてくださいね!


 まずは彼に感謝の言葉を贈る勇気を私に――。

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