side SS:続々・とある少女と合コンパーティ

「よーし、それじゃあまず三人の第一印象を共有していきましょー!」


 乾杯してから少しの間会話を楽しんた後、私は二人に連れられてお手洗いへとやってきた。


『女性陣全員でお化粧直し行ってきまーす』

 

 なんかよく分からないけど、これにはさすがの私でもただお手洗いに連れられたわけではないと気が付く。

 そしてその考えはどうやら間違ってはいないようだ。


「うーん、私は今回パスかなー。個人的に西園寺くんが気になってるんだけど、明らかに興味持たれてないしなー」


 唐突に始まる評論会。そしてまさかのダメ出し。

 というかちょっと意外だなぁ。

 みっちゃんの性格なら『がんがん攻めるよー』くらい言いそうだけど。


「私も今回はいいかな」

「え、そうなの?」


 次いでよしのんもまさかの反応。


「うん。って言っても別に伊南くんたちが嫌だってわけじゃないのよ。話してみると楽しいし、正直最近会った男の子なんかと比べても格好いいと思う」

「まぁ、そうだよねー」

 

 そ、そうなんだ。

 じゃあ一体どうして?


「うーん。うまく説明できないんだけど、あまり深入りしない方が良さそうというか……ごめんね。ちょっと説明しづらいかも」

「そ、そうなんだ」

「大丈夫、ゆうかっちにもそのうち分かるよ。――でもぉ、そんなゆうかっちはどうなのかなぁ? 傍目に見てると西園寺くんのことが気になっているみたいだけどぉ」


 え、そ、そうなのかなぁ。

 う、うーん、自分ではよく分かってないんだけどどうなんだろう。


「き、気になってるっていうか、三人の中だと一番話しやすそうな雰囲気の人だなぁって思って。せ、せっかくみっちゃんとよしのんが連れてきてくれたわけだし……ちょっと頑張ってみようかなって」

「あーなる。そういうことね」

 

 私の言葉にみっちゃんは何か納得したのか繰り返し頷く。

 一方で隣に立つよしのんは口元に笑みを浮かべながら私の肩をポンポンと叩く。


「そうかそうか。まぁたしかにそういう意味なら西園寺くんは良いかもね。東間くんはちょーっと下心が見えちゃってるし、伊南くんは逆に空気を読みすぎちゃうだろうし」


 あ、やっぱり東間くんの評価ってそんな感じなんだ。


「よーし分かった! そしたらあたしとよしのんで上手くサポートしてあげるよ。潤くんも協力してくれるだろうし。ゆうかっちは好きなだけ西園寺くんとお話ししてみれば良いよ」

「す、好きなだけって……なんか語弊がぁ」


 な、なんか変な流れになって来ちゃったけど大丈夫かなぁ。


 

 ******



 と、そんなこんなでみっちゃんとよしのんの協力を経て今がどんな感じになったのかというと。


「え、三毛猫探偵シリーズ読んでるの? 実は僕もあれ最新刊まで追っててさ」

「そうなんですか? え、ちなみにどのお話が一番好きです? 私は異国の古城が舞台の――」


 なんか、思ったより盛り上がっちゃいました。

 えっ、えっ、ていうかめちゃくちゃ楽しいんだけどっ!

 私の趣味を共有できる相手って今までいなかったから、こうやって話せる相手がいるのってすっごい新鮮。


「あ、あのちなみに最近発売された新刊で――」

「うんそれ僕も読んだよ。作者が前に出した作品が好きでね。つい気になって発売日に買っちゃった」

「わ……」

 

 わ、分かるぅぅぅ!

 すごい。こんなに趣味の話が合う人っているんだ……いや、もしかしたらもう二度と出会うことはないかもしれない。

 ほんと、そう思い込んでしまうくらいには相性の良さを感じてしまう。

 それはもしかしたら一方的な感覚なのかもしれないけど、でもなんだかとても嬉しい気持ちになる。


「なんかあっち盛り上がってんな」

「まぁまぁ良いじゃないのー。それよりほら、もっと東間くんの話が聞きたいなー」

「そ、そうか? それじゃあ他には――」

「……単純で助かるぅ」


 うぅ、どうしよう。

 正直西園寺さんとお付き合いをしたい、なんて恐れ多いことは考えられないけど今日この場限りの関係で終わってしまうのは、後々とても後悔する自信がある。

 かといってどうしたら良いかなんてコミュ力皆無の私に分かるはずもなく……。


「(みっちゃん……! よしのん……! 助けてぇ……!)」


 うん。ここは素直に二人の力を借りることにしよう!

 そんな藁にもすがる思いでみっちゃんとよしのんに視線を向けようとした先、ふと意識の外から声をかけられる。


「ご注文。どうぞ」


 急に聞こえる声に身体が反射的にびくりと震える。

 恐る恐る声のする方へと振り向くと、そこには小柄なウエイトレスがメモを片手に立っていた。

 び、びっくりしたぁ……。


「ゆうかっち、西園寺くん、二人とも飲み物そろそろ無くなるでしょ? 次の注文しようと思って店員さん呼んどいたよ」

「あ、うん。ありがと」


 たしかに、よく見ればグラスの中身が残りわずかになっていた。

 ノンアルコールのお酒? って意外と飲みやすくってついついペースが上がっちゃったのかな。

 飲み過ぎには注意しなくちゃ。


「さ、西園寺さんは次は何を飲みますか? こ、これメニュー表です」

「ありがと。んー、どうしようかな」


 私はメニュー表を西園寺さんに手渡しながら一緒になってメニュをー表を覗き込む。

 うん。ドリンクメニューをあらためて見ると、やっぱり種類がいっぱいあるんだよね。

 りんごとかレモンとか果物の味はまだ分かるんだけど、カクテルとかサワーとかお酒の種類なんかはもう全く想像も付かない。

 無難なのはさっきと同じ飲み物を注文する選択肢だけど、場の雰囲気に当てられてか今日に関してはちょっとした冒険心に心がくすぐられる。

 もしハズれだったとしてもみんなの笑いのタネにしてもらえれば良い。

 普段はネガティブな私がそう思えるくらいには、なんやかんやとこの合コンパーティとやらを楽しみ始めている証拠なのだろう。

 少々陳腐な言葉に聞こえるかもしれないが、もしかしたらこれが青春というやつなのかもしれない。

 だからなのだろうか、私はつい『あの言葉』を店員さんに向けて尋ねてみることにした。


「あ、あのー。お、おすすめのドリンクって、な、なんですか?」


 ふぇぇぇ! い、言っちゃったよぉ!

 こ、こんなフランクな感じの質問を私が見ず知らずの人に向けてする光景など半年前に言っても一切信じられないよね。

 なんなら隣に座るよしのんからは「頑張ってんじゃん」みたいな、ちょっと嬉しそうな視線を感じるまである。

 ……えへへ。私頑張ったよ。


「……おすすめ……おすすめ……?」


 一方で小柄なウエイトレスは質問されることを想定していなかったのかキョトンとした表情で首を傾げる。

 あれ、もしかしてウエイトレスさんもよく分かってない?

 ……あー、そうか。よく考えてみればこの子も同い年くらいだ。

 いくらノンアルコールとはいえ、そりゃお酒のおすすめなんてよく分からないよね。

 そんな風に自分なりの解釈を得た私はすみませんでしたと一言詫びを入れようとウエイトレスの方に顔を向けると、次の瞬間驚くべき光景を目の当たりにすることとなった。


 ――くいっ。

 

「ユー。それ美味しかった?」

「あ、うん」

「それなに?」

「えぇっと、マスカットサワーって飲み物だよ」

「分かった。――おすすめはマスカットサワー」


 ……………………あ、はい。

 え、このウエイトレスさんはなぜにお客さんにおすすめを聞いてるの?

 ていうか裾をくいって掴んで…………ん?


「あの、西園寺くん。その子もしかして、お友達?」


 戸惑い一言も口を開けない私の傍ら、同じ疑問を抱いていたのであろうよしのんが聞きたいことを聞いてくれる。


「あー……うん。僕の同級生」

「そ、そうなんだぁ」


 ……うん、でもまぁ別におかしなことではないよね。

 同級生ってことは高校生だし、アルバイトできるし、ここは飲食店だしそういうこともあるよ。


「松永音子。趣味は寝ること」


 感情の起伏に乏しいのか、ほぼ無表情のままにウエイトレスさんは自己紹介をする。

 天然、というか不思議な雰囲気の女の子だなぁ。

 それでいてとても可愛くて、なんかこう頭を撫でてあげたくなるような――。


「ちなみにユーと寝るのが一番好き。よろしく」


 ――ピシッ。


「あ、店員さん。注文済んだんでお願いしますね。早く。すぐに」


 ――くいっ。


「ユー。注文。ドリンク六つ」

「あぁ、うん」

「……ドリンク六つ」

「うん」

「私がドリンク六つも運べると思う?」

「いや知りませんけど!? ……あーはいはい。手伝う! 手伝うから! ごめん、ちょっと行ってくる」


 ――トコトコ。


「ユー。おんぶ」

「お黙り」


 ………………………………なに、いまの?



 ******

 


「い、いやぁ! この魚料理美味いなぁ! なぁ潤。そう思うよなぁ!?」

「うん。美味しいよ。あとサラダ追加しても良いかな。――みっちゃんとよしのんは何か注文したいものってある?」

「大丈夫。あたしも潤くんの注文するサラダをもらうから」

「私はー卵焼きとか注文しようかなぁ。……ゆうかっちはどう?」


 ぽけー。


「あ、うん。そだよね」


 あの子、ホント西園寺さんのなんなんだろう。

 知り合い……よりは友達? でもあの距離感はそれ以上だよね。も、もしかしてカノジョとか。

 あのあと結局西園寺さんがトレーにドリンクを乗せて運んで来て、なぜか手ぶらでウエイトレスさん――松永さん? も一緒についてきたという到底理解が及ばない光景が繰り広げられていた。

 みっちゃん、よしのんともに口には出さなかったものの疑問符を頭に浮かべていたし、東間さんも何か思うところがあったのか頭を押さえながら項垂れていた。

 唯一伊南さんだけは肩を振るわせながら笑っていて、つまりが西園寺さんたちの日常の一コマなのだということを案に示していた。

 ……うぅ、別に西園寺さんのことが好きとかそういうのではないんだけど、なんかこうモヤモヤっとするよぉ。


 とかなんとか考えてるうちに、再びウエイトレスさんの歩く足音が耳に届く。

 き、聞いてみようかなぁ。

 向こうは腐っても仕事中。あまり私事で止めるのはよくないと思うけど、でもやっぱり気になる。

 よ、よぉし! 頑張るぞ、三枝ゆうかぁ!


「お待たせしたのじゃ。さぁ注文を承るぞ」


 うぉぉぉぉ! 違う人ぉぉぉぉ!


「あ、じゃあ和風海鮮サラダと、ノンアルコールのレモンサワーを一つと――」


 あ、危なかったぁ。

 つい知らない人に意味不明な質問をしてしまうところだった。

 ふぅ危ない危ない。

 ……しかしこのお店、さっきからウエイトレスさんのレベルが高すぎやしませんかね。

 最初のおさげの子にさっきのぼんやりした子、それにこの言葉遣いがちょっと独特な子。


「うむ。それでは注文を繰り返すぞ」


 見た感じ外国人だと思うけど、それにしても日本語がとても流暢だ。

 髪色は……なんていうんだろ。金と銀の中間くらいの色合い? 表現の仕方が分からないけどとても綺麗な色合いをしている。

 身長はさっきの子にも負けないくらい小柄だけど、なんと言ってもスタイルがとにかくいい。

 程よく出てるというか、上手くいえないけどしっかりと女の子だと意識させるだけの身体をしているというべきか。……うぅん、なんかそういう言い方だとえっちな感じかなぁ。

 と、とにかく。さっきから可愛い子ばっかりいるなぁとそんな感想を抱きました。まる。


「はーい。それでOKです!」

「うむ。承ったぞ」


 ぼーっとそんなことを考えているうちに注文が終わったらしい。

 メモを取り終えたウエイトレスさんは制服のポケットにメモを入れると――そのまま腕を組みながら、なぜだかある一点へと視線を止める。

 ……うん? なんであの子は西園寺さんを見てるんだろう。

 ふと何か直感が働きそうになるも、それはすぐに答えとなってウエイトレスさんの口から飛び出した。


「ほれ、いくぞ優介。注文じゃ」

「いやいやいやいや」


 いやいやいやいや。

 思わず西園寺さんと言葉が被ってしまう。

 いや、だって……え? ほんとに?


「……西園寺くん。その子ももしかして……」


 ほら、あのみっちゃんもちょっと引いちゃってるぢゃん!


「ん? あぁそうじゃの。わしの名前はカルナ・メルティ。の嫁になる女じゃよ」

 

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