side SS:続・とある少女と合コンパーティ
種目名:合コンパーティ
ルール
カノジョを作ろうとしたら処す。
女の子に好かれようとしたら処す。
女の子に好かれたら処す。
勝利条件
なし
******
「へー、内装もいい感じのお店だねー。さっすが潤くん」
「うんうん。ここら辺って結構よく遊びに来るんだけど全然知らなかったよ」
高い天井から吊るされるシャンデリアがやや赤みを帯びた色の灯で室内を明るく照らす。
無意識に聞こえるくらいの絶妙な音量で流れるクラシカルなBGMが耳に優しく、また煌びやかな外観に負けず劣らずのモダン風な内装もまた雰囲気作りに一役買っている。
なんていうか、こんな私でもいいなぁと思えるほどに素敵なお店だと思うし、みっちゃんとよしのんもお世辞抜きにして素直に褒めているようだった。
「あはは。気に入って貰えたようで嬉しいよ。――実はこのお店、最近まで改装工事をしていてね。知人からオシャレなお店になったって聞いたから来てみたけど、喜んでもらえたみたいで良かった」
あぁ、きっとイケメンさんはこういうお店をよく知っている生き物に違いない。
いやむしろこういう雰囲気のいいお店で雰囲気の良い料理を食べてるからイケメンに育っているのかもしれない。
すごいなぁ。さすがだなぁ……。
「それじゃあ最初に飲み物だけ頼もうと思うんだけど……はい、これメニュー表をどうぞ」
「あ……ど、どうも」
ひぃぃぃ、イケメンがこんな近くにぃぃぃ……!
なんか心なしかいい匂いがする気がする。なるほどこれがイケメンってやつですか。
「あっ、ノンアルコールのカクテルとかあるんだー。えー、みんなどうするー?」
開いたメニューを除いていたみっちゃんがまるでイタズラを思いついた子供のようなニヤけ顔を浮かべて周りを見渡す。
うーん。ノンアルコールのお酒って、未成年も頼めるんだっけ? そういうのよくわかってないんだよね。
「おぉ、やっぱり気になるよな! 実は俺たちもそれ頼もうかって話をしててな。一応店員に聞いてみたら俺たちみたいな学生向けのノンアルコールってのもあるみたいでさ」
話に乗ってきたのは身体の大きな、これまた格好のいい男の子。
茶髪にピアスと割とインパクトの強い見た目のため第一印象はチャラチャラした不良の人なのかと思ったけど、いざ口を開くと実際は悪い人という感じではなくむしろお人好しな性格なのかなぁとさえ感じていた。
とはいえまだ初対面。人となりを判断するには早すぎるよね。
「えーいいじゃん! どれどれ?」
「えーっと……これとこれと、あとこれだな。ちなみに俺はこのレモネードってのを頼んでみようと思ってる」
「おー、いいねー! あたしはそうだな……うーん。よしのんはどうするよ?」
「悩んじゃうけど……私もレモネードのやつにしようかな。これ美味しそうだよねー」
「お、同じじゃん! なんか嬉しいな」
「それじゃあぼくは……ウーロン茶で」
「えーこの流れでそれ!? もう冗談でしょ? ほらほらーこっちに美味しそうな飲み物がいっぱいあるってば」
うん。やっぱり無理だ。
みっちゃんもそうだけどここにいる人たちの距離の詰め方がすごい。
え、元々知り合いでした? ってレベルで会話を合わせていくのが凄すぎてちょっと笑ってしまう。
……はぁ、やっぱり私はこういう場は苦手なんだって実感するよぅ。
――だけどそんな私にもささやかな希望があった。どうやら男の子たちの中にもあまり乗り気ではなさそうな人がいるらしく、勝手ながらつい仲間意識を持ってしまう。
そんな私の視線を感じてか、その男の子はふと私の方へと目線を移す。
当然彼のことを見ていた私と視線がはち合うわけで…………わっわっ……視線が合っちゃったっ!
「ねぇねぇゆうかっちは何飲む?」
「……え? あ、うん、えーっとぉ」
予期せぬ出来事に思わず固まってしまった私だけど、隣に座るよしのんから声を掛けられたことでなんとか自我を取り戻す。
とはいえあまり状況に追いつけないままに飲み物までおすすめで頼んじゃったんだけど……はぁ……男の子と目が合うだけで緊張しちゃうなんてダメだよね。
うぅ……やっぱりこういうのよくないって分かってるんだけどなぁ。
ちらりと彼を覗き見ると、やっぱりどこか緊張した面持ちのまま傍観しているような立ち位置でみんなの会話に参加していた。
うん。多分この中だったら一番話しかけやすそうな気がする。
…………よしっ。
もう少し様子を見てみて、もし彼が優しい人だと分かったら頑張って話しかけてみよう。
せっかくみっちゃんとよしのんがくれた機会だ! 私だって頑張るぞっ!
******
「よーし! それじゃあ自己紹介をしていこうと思いまーすっ!」
店員さんに飲み物を注文すると、途端にみっちゃんが立ち上がりながら雰囲気を盛り上げるべく話を切り出し始める。
そういえば顔を合わせてから少し経つけど、まだ私は男の子たちの名前を知らなかったのだと思い至る。
そ、そうだよね。まずはやっぱり自己紹介だよね。
「それじゃあ言い出しっぺのあたしからってことでー……どもっ! 城ヶ崎女子学園の二年生、
みっちゃんの完璧な自己紹介にみんなが笑顔で拍手する。
探してるのはカラオケ仲間なんですかー? なんてちょっかいの言葉には彼氏なんていっちゃうとがっついてるように見えちゃうでしょー、などと男の子にもちゃんと聞こえるようなボリュームで切り返してこれまた笑いを誘う。
……しゅ……しゅごいぃぃぃ!
いの一番に臆することなく自己紹介を始めるメンタル。
澱みなくつらつらと流れる自分のプロフィール。しかもちょっとしたジョークまでさらりといえちゃうあたりやはりみっちゃんは只者ではなかった。
ってことは当然よしのんも……。
「じゃあ次は私の番ね。みっちゃんと同じ城ヶ崎女子学園の二年生で、
ふぉぉぉ! さすがはよしのん!
そつがなく分かりやすいシンプルな自己紹介だけど、なんか話し方とかがちょっと大人のお姉さんみたいな安心感があった。
実際茶髪のお兄さんなんかちょっとデレデレした表情が見え隠れしてるし、みっちゃんとはまた違った感じで上手くことを運んだって印象だ。
そして……そっかぁ。流れ的に次は私かな? どうかな?
「よしっ! じゃあ次はゆうかっちね!」
私だったぁ。
「は、はひぃ」
挨拶、挨拶……。
息を吸って、ゆっくり吐く。
大丈夫。私は元から上手くできるなんて自惚れてなんかいない。
だから上手く話せなくてなんぼじゃい!
絞りカスみたいな勇気をかき集めて、私は今ここに立ち上がるぅ!
「しゃ、しゃえぐしゃゆうかと申しましゅ! よ、よろしくお願いしましゅ!」
か、噛んだぁぁぁぁ!
二言言うだけなのにめっちゃ噛んだぁ! で、でもなんとか言い切ったよ?
そんな自分に駄々甘な自己評価をつけつつ、恐る恐る男の子たちの方を覗き見ると、なんとみんなが笑顔で拍手をしてくれていた。
よろしくな! 今日は楽しもうね! そんな温かい言葉をかけてくれている。
……あぁ、なんて良い人たちなんだろう。今日は私が全額お金を払えば良いのかな?
「よーしっ! 今度は男どもの番だなっ! んじゃあまず俺からで! 俺の名前は
おぉ、きっちり寄せてきた。
この茶髪さん――東間さん。私でも驚くほどに下心が見え見えじゃないですか。
やっぱり悪い人じゃないんだろうけど……これはどうなんだろ?
拍手をしながらみっちゃんとよしのんの表情を見てみても今一つ反応が分からない。
そんなことを考えつつ、いよいよ待ってましたとばかりに件のイケメンさんが席を立ち上がる。
「それじゃあ次はぼくだね。どうも
なんだ。ただのイケメンか。
というかこれで私と同じ二年生……へぇ、まじですかぁ。
うちのクラスの男子と比べるもの失礼なくらい大人びてるというか、ちょっと童顔な外見とのギャップが印象的なイケメンだと思う。
でもみっちゃん曰く『伊南潤』はやめた方がいいとの話だから、この人ももしかしたら何かあるのかもしれない。
……ふぇぇぇイケメン怖いよぉ。
「じゃあ最後に、締めよろしく」
「あぁ、うん」
そしてついに彼の番が訪れる。
一見すると細身に見えるも何か力強さを感じる、そんな不思議な印象を与える男の子。
それが彼に抱いた私の第一印象だった。
そんな彼がどんな自己紹介を見せてくれるのか、私はふとどこかで期待している自分に気がつく。
と、そんな時タイミングが良いのか悪いのか店員さんが飲み物を運んできてくれた。
「お待たせしました。こちらご注文のお飲み物です」
店員さんがトレーから一つずつ飲み物をテーブルの上に並べ始める。
私が頼んだ飲み物もその中に含まれており、ありがとうございますとお礼をしながら店員さんの顔を見る。
……………………うわぁ、めっちゃ美人さんだぁ。
色白の肌にスラリとしたスタイルにも関わらず出るところはしっかりと出てて、何よりめちゃくちゃ美人顔。
背中まで流れる髪はとても綺麗で、もしこんな子が同じクラスにいたら男の子の視線を独り占めしてしまうに違いない。
さらに可愛らしいウエイトレスの制服がまたよく似合うこと。この子もしかしてアイドルとかでは?
「はい。こちらノンアルコールのピーチフィズです。ふふっ、当店おすすめのお飲み物ですよ」
「あ、はい。どうも」
そんなやりとりを彼とウエイトレスさんが交わす。
きっと彼もこんなウエイトレスさんみたいな女の子が好きなんだろうなぁ。
そんなふうに考えながら
………………なんかめっちゃ冷や汗かいてない?
「以上でご注文は宜しいでしょうか。それではどうぞ
そう言いながらウエイトレスさん柔らかな笑みと共に席を離れていく。
心なしか言葉に力を感じた様な気もするけどそんなわけはないか。
再び彼の表情を見るに、先ほど感じた焦りの様な感情は見受けられなかった。
うん、多分気のせいだったのだろう。
「あー、せっかく飲み物が来たし先に乾杯しようか。僕の自己紹介はその後でするよ」
「えーいいよいいよ! それよりも先に君の自己紹介が聞きたいなーって」
「うんうん。そうだね。飲み物なんて逃げないから大丈夫だよ」
うんうん。
みっちゃんとよしのんの言葉に私も頷き同意する。
そんな女性陣の言葉に苦笑いを浮かべつつ、彼は諦めたように自己紹介を始める。
「それじゃあお言葉に甘えまして。初めまして
そう言い締めると彼――西園寺さんはぺこりと頭を下げる。
「えー! 西園寺くんめっちゃタイプなんですけどー! そんなツレないこと言わないでよー!」
「『そういうこと』って言われても分からないなぁ。これはじっくりお話を聞かせてもらわないとね」
再び拍手が起こるも、みっちゃんとよしのんはニヤリと笑みを浮かべながら西園寺さんに絡み始める。
す、すごい。堂々と興味ないと言い切る西園寺さんもあれだけど、そこで引き下がらずに詰め寄るみっちゃんとよしのんもすごい。
こ、これが合コン……!
「まぁまぁ、ひとまずその辺にして早速乾杯といこうよ」
収拾がつかなくなり始めた状況に、伊南さんが救いの手を差し伸べる。
露骨にちっと舌打ちするみっちゃんとは対照的に西園寺さんはほっとした表情で伊南さんにお礼の言葉を伝える。
おぉ……みっちゃんよ。
「それではあらためまして……みんなグラスを手に持ったかな? ――それじゃあ……優介。乾杯の挨拶をよろしく」
「え、僕が!?」
おそらく事前に打ち合わせがなかったのであろうキラーパスを送られて西園寺さんは顔を引き攣らせる。
いいぞいいぞぉ! そんな周りのヤジに白い目を向けつつ、こほんと一つ咳を入れる。
「じゃあみなさん。せっかくの機会にぜひ盛り上がって楽しんで帰りましょう。それじゃあかんぱーいっ」
「「「かんぱーいっ!」」」
いや帰るんかーいっ! そんなノリノリなツッコミも飛び交う中、ついに合コンが幕をあける。
ほんの少しだけ、ちょっと楽しみにし始めてる私がここにいた。
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