第7話:魔法対抗戦『オリエンテーション』 〜開幕〜
――さぁ、今月もやって参りました! 本年度五月の魔法対抗戦!
――種目名は『オリエンテーション』!
――今回は初参加となる一年生を中心に、二年生のパートナーと共に競い合う初の学年合同試験!
――さて解説役の西園寺生徒会長。この試験の見どころをご説明願いますでしょうか!
――どうもー!西園寺皐月でーす!
――はいはーい! 今回の『オリエンテーション』ですが、まぁ簡単に言っちゃえば賢い人から順番に上がっていくことになると思いまーす!
――賢い人、ですか? それはどういった意味でしょうか
――二、三年生は分かると思うんですけど、この『オリエンテーション』っていうのは年間を通してもかなりルールのゆるーい試験になってます
――最終的に目的を達成できれば割とどんな手段を使ってもいいってところが今回の肝になるんですけど、そこを上手く突けるかってところが今回の見所かなーと思いまーす!
――なるほど。それは確かにそうかもしれませんね
――さぁ、それでは恒例となります注目生徒についてですが、西園寺生徒会長イチオシの生徒はどなたになりますか?
――そうですねー。一応うちの愚弟も参加するので注目してるといえばしてるかなーと。
――あとは一年A組のリーナ・ミリオンさん。また同じクラスの雪代紗耶さん
――この二名にも注目してますね!
――ほぅ、そのお二方はどのような理由で注目されているのでしょうか?
――ミリオンさんも雪代さんも成績優秀者として色々な方面から一目置かれている生徒です
――その上で双方ともにパートナーもまた、良くも悪くも名の知られたお二方になります
――そんなコンビがどのような活躍を見せるのか非常に楽しみですね
――なるほど、それは非常に期待が持てますね!
――さてそろそろお時間がやってきました! 今月はどんな様相を見せてくれるのか! 実に楽しみです!
――みんな頑張ってねー!
******
種目名:オリエンテーション
ルール
本試験には当月で決められた一年生と二年生のパートナーで参加すること。
また校則により認められた魔法はすべて行使可能とする。
※二年生は後述の条件を満たした場合のみ魔法を行使可能とする。
制限時間は120分。
試験開始時、パートナーのうち一年生を対象に縦五マス×横五マスのビンゴカードを一枚配布する。
各ペアは校舎、校庭、体育館に配置されたチェックポイントに向かい、担当者の指示に従い問題に回答することで01〜99の間でランダムに選ばれた数字のマスを開く権利を得ることができる。
ビンゴカードには01〜99から選ばれた24の数字がマスとして用意されており、中央のマスはゲーム開始時より開いて良いものとする。
勝利条件
ビンゴカードのマスが縦横斜めのいずれかで五マス以上並んで開くこと。
特別ルール
二年生は試験前に定めた条件を満たすことで魔法の行使を可能とする。
また上記条件を満たすまで一定以上の情報を一年生に与えないこと。
※『一定の情報』とは個人個人へ事前に連絡している内容を元に判断すること。
******
「以上が学園から提示された試験のルールとなります」
魔法対抗戦の開始まで残り十分程度。
最後の打ち合わせをしようと、私と西園寺先輩は校舎三階の廊下で二人並びながら会話をしていました。
同じく廊下に滞在している他の生徒たちから多少の注目を浴びていることに気が付いてはいるものの、幸いにも耳に届く喧騒が私たちの会話に対する防音としての働きを見せています。
そのため、こちらの声が漏れることはないでしょう。
「うん。僕と認識に相違はないよ。ビンゴシートは持ってる?」
「はい。ここに」
私は真っ白で何も書かれていな便箋ほどの大きさの用紙を西園寺先輩へと手渡します。
「説明では試験開始と同時に絵柄が浮かび上がると聞いています。聞いたところによると去年も同じ形式の試験だったとか」
その言葉に先輩はうんと頷く。
だからこそ二年生からの助言不可と聞けば納得しかありません。答えを知っている人に聞けばクリアは容易ですからね。
「あとは確認したルールもおさらいしておこう」
今度は先輩の言葉に私が頷く。
学園側が用意したルールだけで戦うと痛い目を見る。先の『人探し』における私たち一年A組が受け取った最大の教訓です。
なので私たちは考えつく限りの質問を教師にぶつけてみました。
「まず一つ目ですが獲得した『数字のマスを開く権利』を譲渡することができるというルールです」
例えば私が『01』のマスを開く権利を得たとする。
しかし所有しているビンゴシートに該当のマスが存在しない場合、私は『01のマスを開く権利』だけを有することになる。
単純に考えればそれだけでは私になんの得もない。
「ですが、これは他のみんなも同じこと。なので交換材料としての利用用途として役立てることが出来ます」
そう。自分が一人で試験に臨んでいる場合、マスを開けない権利はハズレとなるわけですが、それを生かすことの出来る仲間がいれば話は変わります。
また試験中はスマートフォンを利用しても良いことを確認しています。
協力する味方に情報を共有し、互いに不要となった権利を交換することが出来れば効率は格段に上がるはず。
このルールを知っているかいないかで難易度が全然変わってきます。
「そうだね。ここは上手く活用しないといけないね。あと他にはどんなルールを確認してるかな」
加えて重要だと考えるのがチェックポイントに関する仕様について。
正直ここは聞いておいて正解だった……というよりも学園側が意図して説明しなかったのではないかというほどに重要な情報が提示されていませんでした。なんとも意地の悪いことで。
いわく、以下の通り。
・チェックポイントは全体で四十箇所存在する。
・担当しているのは三年生が三十名、教師が十名。
・それぞれ獲得できる権利の数が異なり、チェックポイントに到達することで三年生からは一つ、教師からは二つ獲得することが出来る。
・チェックポイントで提示される問題に正解するとさらに一つ権利を得ることが出来る。
「チェックポイントの問題というのが、一ペアしか受けられない問題もあれば複数ペアが同時に挑戦できる形式もあることは確認しています。あとは制限時間ですが、一問当たりだいたい三分程度とか」
こう聞いていると、あらためて時間が足りないように感じます。
一つのチェックポイントで複数の権利を得ることが出来るとはいえ、待ち時間が発生することなどを考慮すると最悪ビンゴに到達することなくタイムアップなんてことは十分にあり得る。
「OK。それじゃあ肝となるのはいかに効率よく回るかということと、あとは仲間との協力の二点であってるかな」
先輩のまとめを脳内で反芻し、認識に相違がないことを確認する。
今回の試験で協力体制を組んだのは伊南心さんと霧矢涼くんの二名だ。
最初に声をかけた西園寺良太くんは別の作戦があるからと断りを入れられ、藤林美桜さんに至っては引き攣った笑顔で遠慮を申し出られた。
……藤林さん、よほど西園寺先輩とパートナーになりたかったんだろうな。
「うん。方針は確認出来たよ。――ちなみに聞いておきたいんだけど、雪代さんの考えとしてこの魔法対抗戦は個人戦だと思う? それともチーム戦だと思う?」
ふと、西園寺先輩から不思議な問いかけが投げられる。
個人戦かチーム戦? どういう意味でしょう。
「……個人戦、だと思います。試験クリアに向けて協力体制は組んでいますが、本質は個人戦だという認識です。だからって仲間を出し抜くなんてことまでは考えていませんが」
ないとは思うが念のため抜け駆けをする意思はないと言葉に含んでおく。
そういう意味……ではないかもしれませんが。
「あぁ大丈夫。別にそれほど深い意味はないから。あとすでに伝えてあるけど、僕の手助け条件はその時が来るまで秘密ということでよろしくね」
手助け条件――西園寺先輩が私に助言をくれたり、魔法を行使できるようになるための条件。
学園から提示されたルールにもあったように西園寺先輩は何かしらの条件を学園側から提示されており、それを満たさない限り西園寺先輩は現在と同様にオブザーバーとしての役目しか果たすことが出来ない。
ただ一方で、私としては西園寺先輩の力を借りることはほとんど期待をしてはいません。
これはあくまで推測ですが、西園寺先輩ほどの人物なら助言一つで試験を攻略させることが出来るのではないかと考えます。
特に昨年も同じような試験を受けているのであれば尚更のこと。まず間違いなく最短での攻略方法を知っていることでしょう。
であればその条件とやらも本当に試験中に満たすことが出来るのか怪しいものだ。
なので、今日の試験はなんとしても自分の力でやり遂げねばならないと覚悟を決めています。
「っと、そろそろ時間だね。準備はいいかな?」
「はい。問題ありません」
時間を確認してみれば、開始まで残り一分を切り始めたところだ。
「ところで、順位はどれくらいを狙うの? 聞いてなかったなぁと思って」
そう口にする先輩の表情にいやらしい笑みが浮かんでいる。
たまに見せるこの顔。なんとも憎たらしいことで。
「そうですね。当然一位を狙います」
やるからには勝つ。それが私の信条です。
「いいね。お手並み拝見といこうじゃないか」
「ちゃんと着いてきてくださいね。先輩」
次の瞬間試験開始の合図が校内に響き渡る。
――さて、それでは行きましょうか。
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