side 一年生:良太は魔法について考える 〜魔法対抗戦の観戦者たち〜
「はよーっす」
「おはよー西園寺くん」
見慣れ始めた教室の扉をくぐり、片手を挙げながら挨拶の声をかける。
つい先日仲良くなったばかりの友人たちが一斉に振り向き元気よく挨拶を返してくれる。
「おい良太、昨日のサッカーの試合見たかよ? 朝ニュースでも盛り上がってたよな!」
「おうよ。うちは家族全員で観戦したぞ。めっちゃ盛り上がってた」
「おぉぉぉ! そういうのいいよな!」
「ねぇねぇ、いま西園寺先輩の話してたー?」
「してねぇよ!」
席に着くなりクラスメイトがどんどん集まり始める。
やれスポーツの試合だ、好きなドラマだ芸能人だ。他にも可愛い同級生や美人な先輩の話などなど、まだまだ話題が尽きることはない。
中学の同級生はこの学校には一人もいないものの、気のいい奴らが多く男女関係なく交友の輪が広がっていくのは素直に嬉しい。
俺――西園寺良太が魔法学園に入学してからもうすぐひと月が経つ。
最初は「魔法使い」がどんな奴らかと気にはなっていたが、蓋を開けてみればどこにでもいる普通の元中学生にしか見えない。
考えてみれば当然か。俺だって側から見れば同じだろうしな。
さて、そんな俺たち魔法学園の一年生たちだが、今日は待ちに待ったビッグイベントが控えている。
「ってかよ、それよりも今日の話題って言ったらやっぱアレだろ」
「それな」
「なーんかいよいよって感じだよね!」
今日、兄貴たちが臨む魔法対抗戦とやらを観戦することとなるわけだ。
******
その反応は大きく三つに分かれる。
一つは激しさを増す魔法対抗戦の様相に感情が昂り、周囲を巻き込みながら盛り上がりを見せる奴。
一つは想像以上の過酷なインファイトっぷりに、これはなんだと終ぞ言葉を失う奴。
そして最後は、俺みたいにどちらでもなくただただ対抗戦をじっくりと観察する奴。
「もうっ! 優介先輩が全然映らないじゃないのっ!」
ついでに言えば隣のこいつも俺と同じく観戦タイプだ。
「ねぇ良太。優介先輩って一般基礎学科クラスで合ってるよね? なんで全然カメラに映らないの?」
「さぁ、俺が知るかよ」
「むー、そもそもなんであの人たちしか映らないわけ? 戦場は二箇所だって解説があったじゃない! もう一方はどうなってんのよぉ!」
それは確かにそうなんだよな。
いま体育館の中央では、魔法により大きく映像が映し出されており、それを俺たち一年生がぐるりと囲みながら観戦している状況なわけだが、先ほどからある一つの戦場しか映像として届けられていない。
画面に映る生徒の人数からしてほぼ全ての生徒が今映し出されているフィールドに臨んでいるように見受けられるが、いくらメイン会場を映し続けると言っても多少なりとも違和感はある。
とはいえ、おそらくその事に疑問を持つ生徒は少ないだろう。というのも、画面の盛り上がり方が先ほどから凄まじい。
あのヤンキーみたいな金髪の男子生徒――山崎先輩? が登場してからの勢いがマジですごい。
まぁ屠る屠る。先ほどまでの拮抗していた戦いは何だったのかと思わせるくらいに山崎先輩が片っ端から相手を倒しまくり、かと思えば触発されるかのように今度は兄貴のクラスメイトが反撃に打って出る。
劇薬とでも表現すべきか、明らかにそれまでの時間の流れとは異なっている。
「これはもう決まったのかな」
「さすがにあの先輩は強すぎるでしょ……」
周囲の反応は概ねそんな感じ。
たしかに反撃は見せているものの
どう見ても負ける。観測者の九割はそう考えてもおかしくはない。
だけど、残りの一割はそうは思わない。
「なぁ、この試合どっちが勝つと思う?」
意見を求めて
「は? 決まってるじゃない。優介さんが負けるわけないでしょ」
「この負けムード満載の状況でも?」
「当たり前よ。優介さんが出てこないってことは何か手があるのよ」
それだ。
何もしないで負ける? あの大の負けず嫌いな兄貴が?
どこで何をしてるのかは知らないが、敗北の気配を感じとるものなら這ってでも現れそうなあの兄貴が出てこない。
ってことは、まだ何かあるんだよ。
とか考えている間に、その声は耳に届く。
『――プランR始動だ』
「――すげぇ……何だこれ」
なるほど、これは甘かったわ。
始まるのは山崎先輩を一方的に嬲る剣戟の嵐。
人の域を越えたと思われた山崎先輩のさらに上をいく、表現することさえ困難なほどの神速は戦場の絶対的な存在をただの速さでリンチにする。
「……良介、あれ見える?」
「いやまったく。何だあれ? マジでどうなってんの?」
それと同時にアリスさんもついに表舞台に姿を現す。
兄貴と同じクラスになったと聞いていたから姿が見えないことのは気になっていたが、まさかこの土壇場までじっと身を潜めていたとは衝撃だった。
あんなボロボロの状況になるまでよく耐えたもんだ。
「あー! もっと頑張んなさいよっ! このままじゃ終わっちゃうじゃないぃぃぃ!」
「お前どっちの応援をしてんだよ」
その言葉の通り、試合はもはや終盤。
金髪先輩女子コンビの活躍で盤上がひっくり返り、もう残すところ数十秒で決着といったところか。
なんつうか、俺たちも一年後にはこんなことしてんのかと渇いた笑いがこぼれる。
てか魔法とは一体……。
「ねぇ西園寺くん」
誰もが画面を見入る中、ふと隣から声をかけられる。
美桜ではない、少し低めの女子の声。
「ん? えっと確か――」
目の前には、見覚えのある見目麗しい可愛い女の子。
特徴的なハーフアップの髪型にクールな印象を受ける感情の希薄な瞳。
確か名前は――。
「少し聞きたいんだけど。今日ってあなたのお兄さんは試合には出場してないの?」
「え、兄貴? いや多分そんなことはないんだけど」
「そう、ありがと」
瞬間歓声が響き渡る。
その様子に画面へ視線を戻すと試合終了のアナウンスが流れる。
やはり最後の勢いのままに一般基礎学科が勝利を収めたらしい。
そして、最後まで兄貴の姿が映ることはなかった。
「ねー! なんか凄かったけどさっ! 優介さんいなかったー!」
「お、おう。そうだな」
隣を見ると、彼女の姿はもう見当たらなかった。
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