side 一年生:良太は魔法について考える 〜授業のおさらい〜
時刻は夜七時頃、俺――西園寺良太は自室に一人で机に向かっていた。
入学してから初めてのテスト、しかも全くと言っていいほど知識のない魔法基礎学カリキュラム。
自信というか、不安しか見当たらない。
まだカリキュラム開始から二週間程度しか経っていないが、最初のところが肝心だからと簡単なテストを実施する旨を担当の先生から通達された。
正直あまり真面目に授業を聞いていなかったものだから少しヤバいかと焦ったのが事の始まりで、急ぎクラスメイトにノートを借りて書き写し、そのノートに齧り付いて今に至る。
「くっそー、魔法基礎学ってなーんか堅っ苦しくて難しく感じるぜ」
もともと座学が得意ではない俺だが、その中でも魔法基礎学はなかなかに手強い感触がある。
入学したての頃はもっと実技寄りのカリキュラムなのかと思っていたが、今のところは全て座学なのも苦手意識を助長させている。
兄貴いわく段々と実践の機会が増えてくるとのことだが、俺としてはそっちの方に期待したいところだ。
「とはいえ今はこれを何とかしなきゃだな」
ため息を吐きながら一度ノートをパタリと閉じて、俺は今日の出来事を思い返す。
******
「さて、それでは本日も魔法基礎学について学んでいきましょう」
挨拶と共に現れたのはどえらい美人な先生――呼び方はマシロ先生。
腰まで流れた漆黒の髪は絹のようにしなやかで、またほっそりとしたスタイルとのぞかせる美人顔がまた素晴らしい。
学年関係なく非常に人気が高い先生と話を聞いて思わず頷いてしまった。
というか、マシロ先生もそうだが、この学校は基本的に女子に美人が多い。
魔法使いとしての特徴なのかは定かではないが、姉貴や兄貴から聞いていた以上に魔法学園とは素晴らしいところである。マジで神に感謝。
「さて、それでは前回のおさらいから入ります。――では、橋本さん」
マシロ先生からのご指名が入り、教室真ん中の席に座る橋本が立ち上がる。
「では橋本さん。これまでの授業を思い返し、あなたが考える『魔法使い』という人物像について教えて下さい」
その質問に対して分かりましたと返事をしてから、橋本は自分の言葉で『魔法使い』の説明を始める。
おっと、ここは俺も聞いておかねば。
「えっと、まず人間は誰しもが『魔力』を備え持っています。ですがこの魔力を何かに利用出来る人はそんなに多くなく、その数少ない魔力を操る事が出来る人たちのことを魔法使いと呼びます」
「結構です。ありがとうございます」
数年前だか、なんかのテレビ番組で魔法使いは1万人にひとりの割合で誕生すると聞いたような記憶がある。
それがどう言った数字なのか俺にはピンと来なかったが、漠然と凄いってことなのかなと考えていたような気がする。
ちなみにここでいう『誕生』とは、人間が生まれると言った意味合いではなく、後天的に魔法が扱えるようになった人を指してる。
そもそも『魔法』が世間一般的に広く知られたのは、ほんの十数年前のことだそうだ。
いわく、もともと魔法と呼べる現象は観測されていたのだが、ふとした拍子に見える
ただまぁ分からなくはない。
大半の普通の人間ってのは理解が及ばないことには蓋をして遠ざかる生き物だし、何も別に巨大な魔法の弾が街中に落ちてくるなんて大それたことが起こっていたわけでも無い。
ただ季節外れの花が咲いたり、時折動物が喋っているように聞こえたり、地面に落とした卵が割れなかったり。
ほら、もしそんな事が起こったとしても不思議だなぁで終わるだろ? そんな感じ。
だけど、それを『何でもないこと』と捉えなかった人物たちがいた。
時折起こるそれらの不思議な現象を調査し、やがて様々な実験の結果その偉人たちは『魔法』へと辿り着く。
何がどうなればそんな事がわかるのかと疑問しかないが、少なからず今この場所にある魔法学園という存在が過去の偉人たちが残した功績の結果だと言えるだろう。
さて、ではその魔法学園とかいう教育機関についてだが、これは世界にいくつか点在しており、そのうち日本には東西に一つずつ存在する。
でだ。その魔法学園に入学するための手段だが、これが何と推薦枠しか存在しないと聞く。
かくいう俺も中学三年生の春に魔法学園側から推薦が届いたことを担任越しに聞いていたわけだが、聞いても基準だとかは一切公開はされていないと回答されら。
魔法学園から推薦を受けるか受けないか、ただそれだけ。
そんなんだから一部からもうバッシングを受けるわけ。
ただそれでも黙秘を貫き続けるもんだから「そういうものなんだ」とクレーム申し立て一同は諦めるしかない。
ちなみに俺は当然推薦は来るものだと思ってた。
だって姉貴も兄貴も入学したんだから、俺だって魔法学園から声をかけられなきゃ嘘でしょ。
次に魔法だが、これは本当によく分からん。
というのも、俺は今のところ魔法を使えないからだ。
学校から支給されたばかりの銀の指輪を指に嵌めてみるがうんともすんとも言わない。
話を聞くにこの銀の指輪が魔力の増幅機みたいな役割を果たすらしい。
先にもあった通り人類は誰もが魔力を秘めているが、一方でその魔力を意図して扱える人ってのはほとんどいないらしい。
99.99%くらい? よく分かんないけどほんの一握りしかいないっていうのが世間一般の認識で、しかもその人たちが表舞台には出てこないものだから半ば都市伝説みたいな話だとよく言われている。
俺もテレビとかで見たことないんだよな。
さておき、要は一般人しかり、俺たち魔法使い候補生しかりこの銀の指輪がないと何にも魔法が使えないってわけだ。
しかもさらに言えば、この銀の指輪はどういう仕組みか魔法学園の敷地内でしか使えないらしい。
俺には全然分からないが、姉貴も兄貴もはっきりと違いを感じると言う。
いつか俺も魔法使いになればきっと分かるんだろうか
******
『良太、キリ良かったりする? ご飯出来たよ』
兄貴の声が聞こえる。
ふと時計を見ればあれから三十分ほど経っていることに気がつく。
どうやらだいぶのんびりしたようだ。
「おぅ、今いくよ兄貴」
ま、何とかなるだろ。
ポイっとノートを机の上に放り投げ、俺は部屋からリビングへと向かう。
ま、習い始めの魔法の知識なんてこんなもんだろ。
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