第6話:魔法対抗戦『かくれんぼ』 〜開幕〜

 ――さぁ、やって参りました! 第二学年四月度魔法対抗戦!

 ――種目名は『かくれんぼ』!

 ――入学したての新入生も大注目の魔法対抗戦! さて一体どのような戦いが繰り広げられるのでしょうか!

 ――本日の解説役には星宮生徒会書記にお越しいただいております!

 ――星宮さん。本日はどのような展開になると予想されますでしょうか?

 

 ――ご紹介に預かりました星宮ほしみや紫苑しおんです。一年生の皆さん、よろしくお願いしますね

 ――さて、肝心の魔法対抗戦ですが、今回はほぼ真正面から激突による手に汗握る試合が期待されるかと想定しております


 ――なるほど。と申しますと?


 ――正確にはフィールドが非常に限られていることにより、戦術の介入する余地があまりないと言うべきでしょうか

 ――見てわかるように、ある一点での大混戦が主戦場であり、その行く末が勝敗に直結することでしょう

 

 ――なるほど、たしかにその通りだと思います

 ――さて、そんな予想をされた星宮さんですが、次に注目すべき生徒について聞いてみたいと思います!

 ――まずは初戦の対戦カードである一般基礎学科と体育学科の中から注目生徒を教えていただけますでしょうか


 ――はい。まずは一般基礎学科から西園寺優介さん。続いて体育学科から佐倉朱音さん。

 ――各クラスともに優秀な生徒が揃っておりますが、やはり両クラスともにエース級とも呼ぶべき代表生徒は最も動向が気になる生徒として名があがります

 ――ですが、このお二方はどの対抗戦であっても注目すべき生徒であることに変わりはありません

 ――一方で今回の魔法対抗戦の注目選手という観点であれば、一般基礎学科の東間翔也さんと体育学科の山崎和也さん

 ――お二方ともに身体能力向上の魔法を得意とする生徒ですが、本日の対抗戦では激しい接近戦が想定されるため両者の活躍次第で戦局が大きく左右されることでしょう


 ――なるほど、初観戦となる一年生の皆さんは、ぜひ星宮さんの予想を参考に魔法対抗戦を楽しんでいただければと思います!

 ――さぁ、そんなこんなでいよいよ開始時間が近づいて参りました!

 ――新一年生諸君! これぞ魔法学園の醍醐味とも呼ぶべき魔法対抗戦を、ぜひその目に焼き付けて欲しいんだぜー!


 ――あ、カメラさん、メインの中継は意識しておいてくださいね?

 


 ******

 


「よーし、作戦の最終確認をするぞー」


 椅子にあぐらをかき、リラックスした姿勢でクラス中の生徒に声をかける。

 対抗戦開始まで残りわずかの時間を、ボク――姫島姫子は最後の作戦会議に時間を費やすことにする。


「全員集まったよ」


 ボクの隣に立つのは柔和な笑みを浮かべる黒髪男子――伊南潤。

 コミュニケーション能力の高さや頭のキレの良さは学年でも一二を争うほどに信頼に足る人物で、去年に続き、二年生でもボクの補佐は伊南に任せることにしている。

 

「伊南」

「了解です」


 伊南に声をかけると、その意図を察して彼は動く。

 慣れたもんだと他人事のように思わず感心してしまう。


「はーいっと」


 伊南は指輪に魔力を込めてから、右手を横に薙いだ。

 次の瞬間、空中に青い光で学園三階フロアの地図が描かれる。

 周囲の視線が宙に向かうこと気配を感じたため、ボクは話を進める。


「それじゃあ改めてルールの説明からするぞ。まず今回のかくれんぼだけど、勝利条件は敵の『子』を見つけることだ」


 世間一般的な『かくれんぼ』と聞けば、誰もが『鬼』が『子』を探すルールを思い浮かべるだろうが、今回の対抗戦もそれに漏れず、敵の中にいる『子』を見つけ出すことが勝利条件となる。

 だが当然、そこには有栖川魔法学園独自のルールが追加されている。


「ただし、この見つけるってのが重要だ。方法は二つ。一つ目は審判に敵の『子』を伝えること。ただし間違えた時点で負けが確定する」


『子』は身体のどこかに花柄のワッペンをつけることになっている。

 決まりとして生徒はダミーのワッペンをつけることは許されず、それゆえにワッペンを見られた時点でほぼ負けが確定すると言っても過言ではない。

 確認した瞬間に自陣にダッシュ、設置されたマイクで審判に報告してはいゲームセットてなもんだ。

 あとはこの『子』だが、これは学校側で指定した生徒が任命されるルールとなっている。

 そのため相手の考えが関与する余地がなく、誰かを推理することに関しては一切意味がない。

 

「次に二つ目だが、これは簡単だ。『子』を退場させる」


 もう一つは『子』を退場させる方法。

 手段は非常にシンプルで、『子』のバリアの消耗させて魔力切れを起こすことでフィールドから退場させる。シンプルかつ分かりやすい方法だ。

 そして、一般基礎学科クラスの戦略方針はこの後者となる。

 

「なぁ一応聞いておきたいんだが、向こうの『子』を知る作戦なんかはないのか?」


 モブ男子Aから質問が飛ぶ。なんだっけ名前、鈴木?

 うん、悪くないタイミングでの質問だ。

 

「んー、あるっちゃあるけど、あんま現実的ではない。よって敵の殲滅狙いが一番効率的だ」

 

 まずはじめに、クラスの総合力ではやや体育学科の方がやや上回っている。

 ここに戦術や応用力が加味されれば戦力バランスも変わってくるが、こと今回のように真っ向勝負が軸となる戦い方になると、どうしても身体能力の高い向こうに分が上がる。

 加えて今回のフィールドの狭さが問題である。


「みんなも知っての通り、今回のフィールドは校舎三階のワンフロアのみ。しかも部屋への入室が禁止されてるから戦場が校舎二つ分の廊下と、渡り廊下が二本のみに限られているってわけだ。分かるだろ? これじゃあ戦略も何もあったもんじゃない」


 宙に浮かぶ地図を指差し、あらためて状況を説明する。

 せめてあとワンフロア、もしくは空き教室の利用くらい許可があれば戦略の幅も広がるものだが、さすがにこの状況では出来る事が限られてしまう。

 

「しかも相手がスーパー脳筋集団の体育学科だ。変に作戦なんて案じてると物量で押し切られちまうよ」

「まぁ、たしかにそうか」


 余計な作戦を立てるくらいなら相手を潰すことに神経を集中させろ。

 そんな意図を感じ取ってか、鈴木(仮)は納得する素振りを見せる。


「でだ、そんな話をした上で数少ない作戦をお前たちに伝えよう」


 そしてここからが本題だ。


「いいか、ボクたちの主戦場は近い方の渡り廊下だ。ここを突破せずして勝ちはない」


 伊南に視線を送ると、彼は意図を察して地図上にポインターを表示させる。


「まず自分と相手の陣地だが、別々の校舎の対角線に位置した場所に存在する。今いる廊下の端っこの教室がそれだ。次に対抗戦開始後、互いに教室から廊下へと移動、数十メートル先にある渡り廊下に向かって左折し、そこを突っ切って相手の陣地を目指すってのが正攻法ってやつだ。ま、敵陣地に『子』が隠れているときの戦略にはなるけどな」

 

 ボクの説明に合わせて伊南がポインターを移動させ、クラスメイトの数人はその説明に頷いている様子を見せていた。


「『子』は敵陣地に必ずいると思うか?」

「さぁ分からん。一番大きい可能性ってだけだが、その辺りはボクに任せてくれ」


 それを見極めるのはボクの仕事ってなもんだ。


「話を続けるぞ。例えば前提として、互いに二つ渡り廊下の両方を進もうとした場合だが、結果としてはどちらでもそれぞれの渡り廊下の上で敵と対峙することになる」


 説明と並行し、ポインターを用いて実例を地図上で表すと位置に差は出てるものの、二つそれぞれの渡り廊下の上で両クラスがぶつかるような動きを見せる。

 

「あえて渡り廊下を避けるメリットもなし。要はこのファーストインパクトを制した方のクラスが勝利するってわけだ。その上で繰り返すが、狙うのはボクから見て最初の渡り廊下の制圧だ」


 まずメリットとして、敵よりも距離が近いためいち早く陣形を敷く事ができる。

 この些細な違いこそが戦局を大きく左右すると言っても過言ではない。

 そしてその試合運びが最も勝率を高くする。

 

「いいか東間。お前が最前線で生き残り続けることが勝利の絶対条件になる」


 ボクたちの一番のラッキーはこのチャラい見た目をしてる茶髪男子が『子』ではないことだった。

 こいつは数少ない体育学科相手に前線を戦い抜けるだけの実力があり、ゆえに今回の対抗戦に適した能力を有している。

 仮に東間が『子』であった場合、退場させるわけにはいかないため前線に出すことは叶わず、文字通りに戦力差で圧倒されていた可能性が高い。

 そういった意味では、特定のタレントが戦力の軸となる一般基礎学科クラスにとって苦手なルールだと言えるかもしれない。


「おうよ任せてくれ! ――おいおいこれもしかしたらついに二つ名が貰えたりするんじゃねぇか!?」


「「ちっ」」


 東間がまたいらぬ余計なことを言う。

 だがしかし、ここにきてクラスの気持ちが一致団結してるいのもまた事実。

 だけどまぁ、みんなの気持ちがわからんでもない。

 

「おい東間、あんまりみんなのモチベーションを下げるなよな」

「どう言う意味だよっ!?」


 文字通りだが。

 

「なぁもし東間がMVPに選ばれた時のために二つ名を決めとこうぜ」

「ちっ、仕方ねぇ。だったらもうシンプルに【変態】とかどうよ」

「いやもう少しインパクトが欲しい。ほら5月からあれがあるし、【ロリコン】とかどうよ」


「「それいいね!」」


 こめかみに青筋を立てる東間を横に盛り上がりを見せるクラス一同。

 まぁこんな空気で対抗戦に臨むのも悪くはないかと話を切り上げる。

 元々作戦は伝えていたし、まぁ問題はないだろ。


「あとは、優介」


 あともう一人、今回の対抗戦で東間以上の大役を任せることになる生徒へと声をかける。

 彼は隣に立つブロンドヘアの少女に対して、身振り手振りで何かを説明しているようだった。

 こちらに向けて視線で返事をしながら彼女との話を続け、少しした後にボクの方へと歩いてくる。


「お待たせ。どうかした?」

「いや、これから大役を務めるヒーローに激励の言葉を送ろうと思って」

「なんだよそれ」


 優介は苦笑いを浮かべる一方で、ボクは机に肘をつきながら顎を手に乗せながら笑みを浮かべる。

 リラックスする空間と時間を作ること、これがボクにとってとても重要なことである。


「これで向こうさんが誘いに乗って来なかったら笑っちゃうけど」

「それはそれで面白いけど。ま、ないだろ」


 優介の問いに対して、ボクは断言する勢いで彼の言葉を否定する。

 間違いなく彼女・・は誘いに乗ってくる。

 これは予想ではなく確信である。


「そうだね。ないか」

 

 そう一言呟き、優介はふとクラスを見渡す。


「勝つよね」

「当たり前だろ。勝ち筋しか見えないな」

 

 ボクもクラスを眺める。

 誰かが一言口にすると、それに怒った東間がキレる。

 これから対抗戦が始まると言うのに至極呑気な光景である。


「一応聞いておくけど、中継カメラは……」

「確認したけど一年生にはモニタ一つ分中継すつらしい」

「そっか。それなら安心かな」


 そんな雑談を交わしていた中、件の金髪少女がこちらに近づいてくる。


「そろそろ時間です」

「あぁ、そうだな」


 彼女の一言で教室の空気が変わる。

 先ほどまでの和気藹々とした柔らかい雰囲気から一転し、殺気にも似たピリッとした空気がボクの肌を刺激する。

 そんな中でさえ、ボクは椅子であぐらをかいたまま時計を見つめ、口を開く。


「東間。前線は任せた。お前が引かなきゃこの勝負は勝てる。他の奴らは意地でもアズマを戦線から引かせるなよ」

「まかせろ!」


 クラス一のお調子者が両手に黒いグローブを嵌めながら応える。


「藤堂。敵を倒すことじゃなく東間を守ることに集中しろ。二発まで判断を任せる」

「その指令、承りました」


 カチューシャをつけたこのクラスに似つかわしくない魔法特化の少女は指に嵌めた銀色の指輪をなぞる。


「スメラギ、山田。前線は任せて時期を待て。合図はこっちで出す」

「了解しました」

「れ・い・か、ですわよ!」


 綺麗なブロンドヘアが流れる常に冷静なの相棒はその手に銃を、両サイドの小さなリボンが特徴的なもう一人のブロンドヘアの彼女はその手に竹刀を持つ。


「伊南。サポートを頼む」

「うん。わかったよ」


 常にマイペースなサポーターはいつもと変わらず笑顔で答える。


「優介。やっちまえよ」

「言われるまでもないよ」


 メガネをかけた魔法使いが扉の前に立ち振り返る。


「みんな、いい戦いにしよう――なんて気休めの言葉はなしだ」


 彼は口角を上げて笑みを浮かべる。


「勝つことに意味があるんだ。そうだよね?」


 時計の針が刻まれる。

 五、四、三……。


「いくよ、みんな」


 二、一……。


 ――ブーッ


『対抗戦スタートです!』


「「「うぉぉぉぉぉぉ!」」」


 二学年最初の魔法対抗戦はこうして幕を開けた。



 ******



 種目名:かくれんぼ


 ルール

 参加メンバーは各クラス二十五名による総力戦とする。

 校則により認められた魔法はすべて行使可能とする。

 

 各クラスより学校側でランダムに一名を『子』として指定する。

『子』に選ばれた生徒は着用している衣服にワッペンを付けること。

 また『かくれんぼ』の時間で『子』以外の生徒がワッペンを着用することを禁止する。

 

 勝利条件

 1:相手の『子』を特定し、自陣の教室に設置されたマイクを通じて審判に連絡すること。

 2:相手の『子』の魔力が消失し、『子』がフィールドから退場すること。

 

 特別ルール

 なし 

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