第2話
一か月後、ホワイトデー。
「はい、これ。バレンタインありがとう」
「ありがとうございます、生徒会長!」
丁寧にお返しを渡す遠坂に、女子生徒が目をハートにして行列を作っている。アイドルの握手会か何かだろうか。
当然、その中に青野の姿はない。
放課後の生徒会の時間も、特にバレンタインデーの話題もホワイトデーの話題も出ることはなく、庶務が一人そわそわとするだけで、淡々と過ぎた。
結局あの二人どうしたんだろうか、と思いながらとぼとぼと校門を出たところで、庶務は気づいた。
「いっけね、忘れ物!」
ばたばたと生徒会室へ戻ると、中から人の話し声がする。
びたっと足を止めて、庶務はそっと扉を開け、隙間から様子を窺った。
中にいたのは、遠坂と青野だった。
「青野、バレンタインありがとうな。これ、お返し」
遠坂が可愛らしいラッピングの小箱を取り出すと、青野が目を丸くした。
「会長。どなたかと勘違いしてませんか? 私、バレンタインは渡してませんよ」
「いいや、くれただろ? 惑星形のチョコ。俺が天文学が好きだって言ったの、覚えててくれたんだな」
朗らかに笑った遠坂に、青野は照れたように顔を俯かせた。どうやら当たりのようだ。
「こ、これ、開けてもいいですか」
「ああ、もちろん」
青野が嬉しそうにリボンを解く。覗いている庶務まで、何故かどきどきしてきた。
綺麗なラッピングが解かれると、中から出てきたのはマシュマロだった。
(か、会長ーーーー!)
庶務は心の中で絶叫した。声を上げるわけにはいかない。しかし、しかしだ。
「あ、ありがとうございます。大切にいただきますね」
「喜んでもらえて良かった」
少しだけ引きつった青野に気づくことはなく、遠坂は無邪気に笑った。
そのまま二人が部屋を出てきそうだったので、庶務は慌てて隠れた。
二人が生徒会室から十分に離れたのを確認して、庶務は部屋に入り、忘れ物を回収した。
「あったあった」
ほっとして息を吐くも、先ほどの出来事を思い返して、渋い顔をしてしまう。
完璧な生徒会長。優等生の生徒会長。女心も、知り尽くしていそうなのに。
(お返しの意味、調べなかったんですか、会長)
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます