第14話 検索結果
白い花、頭。
これは、圭介の頭に咲いた白い花が、私にしか見えないとわかったその日に検索したキーワード。
絶対に私以外にもいるはずだと思った。こんなバカバカしい話、ブログやSNSのいいネタじゃないか。
だけど私の予想を裏切って、検索にヒットしたのは、本物の白い花ばかりだった。
違う、私が知りたいのはこれじゃない!
私は焦ってキーワードを変えてみた。
でもどんなに画面をスクロールしても、私みたいに、急に誰かの頭に白い花が咲いて困っている、なんてことは出てこなかった。
もちろん、一番知りたかった“こうしたら解決した”もない。
あれから、一週間以上が経つ。
寝起きのスッキリした今の頭で検索したのは、小さい子が好きなものはなにか、だった。
圭介と私だけが共有しているなにかを、圭介に思い出させるためのアイテムを探さなければならないのだ。
それがさっぱり思いつかない私は、インターネットの力を借りることにした。
ヒットした、7つの答え。
キャラクターグッズ、おもちゃ、絵本、歌、食べ物、恐竜、工作。
その内、気になったものをメモ用紙に書き写す。
「失敗したジュースと駄菓子は、食べ物に当てはまるよな……あとはキャラクターグッズ、おもちゃ、絵本……歌は聞こえないからダメだし……」
私はメモ用紙に大きくバツを書き込む。
『金曜日にさ、団地のフリマがあるんだよ』
唐突に、昨夜の幸太の言葉を思い出す。
「明日のフリマで、懐かしいおもちゃがあるか見てみようかな……いや、その前に今日選んだもので正解するかもしれないし……今日は何にしよう」
私はメモ用紙のキャラクターグッズ、おもちゃの部分に“明日のフリマ”と書き込みながら考える。
メモ用紙を眺めると、選択肢は絵本以外なかった。
「絵本か……本屋……いや、図書館があるじゃん!」
私はふと思いつき、市内の図書館の開館スケジュールを調べる。
「近くの公民館は休みだけど、図書館は開いてる……祝日でも開いてるんだ、良かったぁ」
私はほっとため息を吐いた。
図書館は、団地から歩いて20分くらいのところにある。
すぐ近くにある公民館の図書室より、置いてある本は多いし、フロアの面積もかなり広い。
「よし、今日はここに行こう。今日のバイトは夕方からだし……あとは、あのサプリだ」
私は思考を切り替えて、昨日の夜に圭介から見せられたサプリメント会社のホームページを探し始める。
特徴は、いかにも健康そうな、爽やかな笑顔を浮かべた男性モデル。
それに、睡眠は大事です、最近よく眠れていますか? の文字だ。
「えっと……これじゃない……」
私は“安眠”、“サプリメント”のキーワードでヒットしたものを片っ端から開いていく。
「あっ、あった、これだ! えっと……へぇ、口コミ件数、けっこうあるな……これ、みんなサクラなんじゃないの?」
昨夜は気がつかなかった、続々と届く感謝の声、の文字。
そこには無料サンプルを試したという体験談が、複数紹介されていた。
そのどれもが、飲む前よりよく眠れるようになり、生活水準があがって良かった! という内容だ。
年齢は20代〜70代までと幅広い。
「私も試しに取り寄せてみよう……無料だし」
送料無料!
数量限定サンプル!
お申し込みはお早めに!
「それにしてもうまいよな、この謳い文句……限定、とか品薄とか言われるとさ、人気があるなら安心かもとか、早く注文しないと手に入らないかも、とか思うもんな……」
ぽちりと、目立つオレンジ色のボタンを押す。
すぐに画面は、名前、住所、連絡先を打ち込むものに変わった。
「はあ……申し込んだ……」
私はため息を吐いて、枕に顔を
あのサプリメントは危険だ。そして、うまく行けば
しんと静まりかえった空気に、カチコチという時計の音だけが耳に入ってくる。
体を回転させて、私はベッドの天井を見た。
二段ベッドの下段だから、天井がとても近くに感じる。
上段のベッドの主である妹は、友達と出かけるのだと言って朝早くから家を出ていた。
「一人部屋っていいよな……なんか落ち着くわ……」
脳天気な弟や、やかましい妹とわいわいしてるのも嫌いではない。
だけど、たまには静かな部屋で一人になりたいと思ってしまうのだ。
「高校出たら働いて、お金貯めて一人暮らしするんだ……」
一人呟く言葉が、すぐそこにある薄暗い板に跳ね返って落ちた。
今のバイト代は、一部を家に入れていれている。
差し引いて残った分は自分の小遣いにしていて、その中から少しでも貯められたらと思っているが、結局なんだかんだ使ってしまっていた。
お金を貯めるのって難しい。
日頃から“お金が貯まらない!”と言っている母の言葉がよくわかる。
「あと約2年で、学校も卒業か……」
なんだか不透明な未来は、思い描くのが難しい。
そして圭介の未来は、私が正解を出さなきゃ難しいどころか消滅してしまうんだ。
そう思うと、焦りで気がおかしくなりそうだった。
「図書館、行くか」
枕元の時計の針は、10時30分を示している。
ぼんやりしていると、あっという間にバイトに行く時間になってしまう。早く行動しなくっちゃ。
「圭介、どんな本を読んでたっけかなぁ……ちゃんと思い出せよ、私!」
私はかすかな不安を片隅に追いやって、勢いよく体を起こしたのだった。
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