第13話 圭介の選択
あっ! このピンク色の缶は! 桃のやつだあ!
懐かしいなぁ……そっか、リカちゃん、僕がこのジュース大好きだったの覚えててくれたんだ……なんだか嬉しいな……
うん……甘い……甘いな……あれ……このジュース、こんなに甘かったっけ? 久しぶりに飲んだからそう感じちゃうのかな?
うぅ……これ全部飲むのきついな……でも、せっかくリカちゃんが僕の為に買ってきてくれたんだから、頑張って飲むけどね!
って、なんで捨てちゃうの⁉ もったいない!!
あーあ……ほら、リカちゃん悲しそうな顔に……いや、怒っちゃったじゃない。そりゃ怒るよねぇ……ごめんね、リカちゃん……
あ、今度は駄菓子だ……これも懐かしいなぁ…
あれ? このドーナツとチョコレート、こんなに小さかったっけ……でも、あの頃はこれで満足してたんだよね……
って、なんで受け取らないの⁉ ねぇ⁉
ああああ、ほら、リカちゃんの手が怒りに震えてるよ!! 怖いから早く受け取ろうよ!! ねぇ⁉
あーあ、ほら、早く受け取らないから、リカちゃん諦めて手引っ込めちゃったよ……
ごめんね、リカちゃん……せっかく僕の為に色々買ってきてくれたのに……それに、大事なお金使わせちゃった……
それにしても、いったい僕はリカちゃんとどんな話をしているんだろう?
声の人が何を言っているのかは、僕に直接話しかけてくる時以外は聞こえなくなっちゃったからなぁ……
いいなぁ、リカちゃんとたくさん話ができてさぁ……
ん? ちょっと! なにしてんの⁉ 急にリカちゃんの手を掴むなんて!
……いや、リカちゃんに
えっと、そうじゃなくて、もっと優しくしてくれないとさ、僕のイメージが悪くなっちゃうじゃない?
ん? なにこのスマホの画面……安眠サプリ?
もしかして声の人、リカちゃんにこれ勧めてるの?
ってことは、リカちゃん、眠れてないのかな……大丈夫かな……
はっ!! もしかして!! それって僕のこと心配しすぎて⁉
うわぁ、めちゃくちゃ嬉しい!!
……って、そんなわけないか……うん、きっとそれは僕の願望なんだ、そうなんだ……
えっ……リカちゃんが僕の腕を掴んで!! なにか真剣な
うわぁあ! ちょっと、なんて言ってるの⁉ 声の人、通訳してよぉお!
……あれ? もう終り? 早……あっ、リカちゃんが帰っちゃう……また明日、来てくれるかな……
今日はよく眠れるといいけどな……リカちゃん……眠れないと……僕みたいにだんだんおかしくなっちゃうかもしれないし……
『なにかお悩みなら、このサプリメントを試してみませんか? 丁度、最後の一つなんですよ?』
あの日、頭に白い花の冠を載せたきれいな女の人に、突然声を掛けられたんだ。
ぼんやりと、団地の屋上を眺めていた時にね。
見たことのないひとだったよ。
それに、こんな
だから聞いたんだよ、どうしてここでそんなもの配ってるんですか? って。そしたら。
『この団地の屋上から旅立つ方を減らしたくて……私、薬だけじゃなくて心理学の研究もしてるんですよ』
にこっ、て笑って言ったんだ。
可愛かったなぁ……ちょっとぼうっとしちゃったよね。
きれいなお姉さんから受け取ったサプリメントは、小さなビニール袋に入っていて、小さなメモが入っていた。
『これは自然由来の成分でできているの。聞きたい事があったら、いつでも連絡してね。電話でもメールでも、どちらでも大丈夫だから』
じゃあ、と白いワンピースをひらひらさせて、お姉さんは立ち去った。
たった一粒サプリメントを飲んだくらいじゃ、なにも変わらないだろうな……
僕はそう思って、その茶色い粒を飲んだんだ。
それからしばらくは、なぜか心が静かになったように感じたよ。
……でもそれでも、他の人と楽しそうにしているリカちゃんを見るのは辛かったけど。
『君の深い苦しみや悲しみは私が背負うから、君は休んでいいんだよ? さあ、どうする?』
そんな問いかけの声がして。
僕はつい、少し休みたいって思っちゃったんだ。
うん、お願い。
そう言ってしまってから今まで、僕はふわふわしたあたたかくて心地いいところにいる。
ずっとここでこうしていたいって思っちゃうくらいの、安心感なんだ。
リカちゃんを少し遠く感じるのは寂しいけど、それは今までだって同じ……いや、今まではもっと辛かった。
リカちゃんが幸せなら……毎日楽しく過ごせるなら……もう、それでいいかな……
ほんとはその隣にいたかったけど、きっとそれは僕の役じゃないんだと思う。
他の誰かがリカちゃんの隣にいるのを見なくて済むなら……それがいい……僕はもう、辛いのは疲れたんだ。
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