第6話 推測

「表に出たがらないのを引っ張り出す方法? ……なにそれ、弟が不登校にでもなったの?」

 汐里が、紙パックのストローからずるずると音を立てながら聞いてきた。ちなみに、聞いてるのは私の方だ。

 今は昼休み中で、私はいつものように汐里と向かい合ってお昼ごはんを食べている。

「まあ、そんなとこ……」

 本当は、中学三年生の弟じゃなくて圭介のことなんだけど。

 でも、汐里には言えない。

 圭介が虫に乗っ取られそうで困ってるなんて話、私だって信じてないんだから。

「うーん、なんで学校に行きたくなくなっちゃったのか、その原因によるかな? いじめ?」

「ううん。なんだろ……なにが原因なのかは、よくわからないけど、なんとなく……」

 私はまたお茶を濁した。

「ふぅん……でもまあ、中学って義務教育だから休んでも大丈夫なんじゃない?」

 汐里はお弁当のカニさんウィンナーに、ぐさりとフォークを刺した。

 汐里のきれいな彩りのお弁当は、毎朝お母さんが早起きして作ってくれているらしい。

 私はそれを見るのが好きだけど、今はもっと大事なことがある。

「いや……うちの親が心配しててさ……」

「うーん、じゃあ、ただゴネてるだけっていう前提で考えよう。モノで釣るとか」

「モノか……」

 私は袋からはみ出したパンに齧りつく。

 あんことバターを挟んだコッペパンだ。

「私のオススメは、3大欲求を刺激することよ!」

 色鮮やかな黄色をした卵焼きを刺したフォークを掲げ、汐里は熱弁した。

「3大欲求?」

「そっ。睡眠欲、食欲、性欲の3つよ」

 汐里はさすがに声を潜めた。

「性欲ってさ……」

 私はなんとなく不快になった。

 そりゃ、圭介だって高校二年生ともなれば、異性に興味を持っても不自然じゃない。

 いや、むしろその方が健全な気さえする。

 私は思わず、グラビアアイドルの雑誌を見てにやけている圭介を想像した。

 うっ、なんだろ……すっごい嫌悪感!

「まあ、エリカの弟はまだ中学生だから、可愛いアイドルグループの写真集とか、好きなアニメのキャラグッズとかどうよ?」

「あぁ、まあ、それくらいなら許せるかな」

 グラビアアイドルは許せん。

 でも私、圭介の好み全然知らないんだよなぁ……

 脳裏に、バイト先のスーパーでたまに見かける圭介のお母さんの姿が浮かぶ。

 いきなり圭介の家に行って、部屋を見せてくれなんて言えないしな……怪しすぎる……

「選ぶの手伝おうか? ほら、駅前にお店があるじゃん?」

 汐里は電車で、私は自転車で通学している。

 学校の最寄り駅から3駅下り方面にある駅が、汐里の自宅の最寄り駅だ。

「ありがとう……今度ジュースおごるわ……明日からゴールデンウィークに入るから、休み明けね」

 忘れそうだな、なんとなく。

「うん。私、ゴールデンウィーク中なんにも予定ないから、暇つぶし用の漫画買おうかな……あー、彼氏欲しいなぁ……」

 汐里はぶつぶつ言いながら、スマホで候補の漫画を検索し始めたのだった。

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