ユウカ 編 第四

 その子どもは不思議な存在だった。夜も遅く、子どもが一人で遊ぶ時間ではない。


 そもそも、いまどきの子どもに、こんなおかっぱの髪形の着物を着た子どもなんて、いるはずがないと思った。


「誰だ」


 ハルキは私の前に手をかざし、警戒しながら問いかける。


「われは、天から参った使いの一人でございます。この度は、そちらの女性にお伺いに来たのですが…… なぜ、ここに?」


 言っていることが意味不明である。


「ユウカに何のようだ?」


 ハルキが強く問いかける。


「われらの役目は、かの女性に語り合うこと、それ以上のことはありません」


「何を言っている…… 妻を殺しに来たじゃないのか、そうだろ!」


 私は、ハルキがいつも以上に殺気立つのを感じていた。


「やめて、少し変わった子どもよ!」


 そんなハルキが怖く、私はなだめた。


だが「僕の後ろに居て、必ず守るから……」と言われてしまった。


「何をおっしゃっているのですか、われらが殺すことは致しません、お二人に何かあったのでしょうか? 大丈夫ですか?」


「とぼけるな‼ 逃げるぞ、ユウカ!」


「えっ、ちょっと待って」


 そう言って、私の手を引っ張り、私たちは坂道を駆け下りた。


「あっ、ちょっと待ってください、何を警戒しているのですか? 逃げないでください、あっ、ちょっと、え、早い」


 同時に子どもも走り出したようだったが、すぐに見えなくなった。


 私たちは下り坂の慣性を利用して、活きよいよく走り続けた。ハルキが強く手を握り続けるから、私は走り続けるしかなかったが、こんなに勢いよく走り続けたのは、随分と久しぶりだった。


 私が途中息切れして、ハルキはそれを察しって止まった。


「はぁはぁ、疲れた」


「ごめん、勢いつけすぎた、大丈夫か?」


「大丈夫じゃないよ! 私、一応妊婦よ。突然走らないで!」


「ごめん、本当に悪かった。でも無事でよかった」


「何が無事よ、さっきみたいに抱いてくれればいいのに……」


「ごめん、今度はそうするよ……」


 ハルキは少し安堵した様子だった。


「で、あの子どもはなんなの?」


「多分、君を狙っている仲間だと思う……」


「あのさ、なんで私が狙われてるの?」


「わからない。でも、ユウカさんが訳の分からない人達から狙われていることは事実だったから……」


「やっぱりさ、警察に相談しよう、私も分かったから……」


 私たちが立ち止まった所から、少し歩くと駅が見えてきたが、人影が見えなかった。


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「申し上げます。申し上げます。申し訳ありません。かの女性を確認致しましたが、逃げられました。申し訳ありません……」


 堅苦しい口調で愛らしい子ども声が泣き響ている。


「どういうことだ‼ なぜ、かの所におらず、ここにおるのか‼ おまえはなにをしておるのだ‼」


 耳を突く怒声で、周囲を凍り付かせる。


「まあ、少し落ち着きましょう。われの者であるゆえ、ここは少し冷静に……」


 その怒声をなだめようとある者が優しく諭す。


「これは由々しき事態だ」


 その状況を見てた者が警戒感を示す。


「由々しき事態ではないぞ、むしろ、有事である」


 ベンチで寝そべる者が先の言葉を訂正する。


「では、どうする。探すのか? 手間がかかるぞ」


 別のベンチで座る者が懸念を示す。


「探すほかないだろう。手掛かりはあるのか?」


 矛を持った者が投げかける。


「かの女性の住まい、実家は確認済みです」


 怒声をなだめた者が述べる。


「では、そこをあたるか……」


 ベンチで座っていた者が立ち上がり、動き始める。


「しかし、この様な出来事があった以上、相当警戒しているようですし……」


 なだめた者が事の状況を推測する。


「姿を偽らならければならんな」


 ベンチで寝そべていた者が適切な判断を述べる。


 怒声を上げた者が皆に問いかける。


「おい、かの所に向かわせた者らはどうした? 未だ戻っておらぬぞ……」

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