ユウカ 編 第二

 懐かしい夢だった。電車に乗り、大学に行って、講義を受ける。

 

 ただ、何気ない過去の日常の夢だった。お気に入りのイヤーカフを左耳に付けて、電車に揺られながら本を読んだり、講義前に友達と話したり、その時は何とも思わなかったけど、今の私にとっても大切な思い出だった。でも、何かが欠けていた。私にとって何か重要な……


 突然、声が聞こえた。


 私は、ゆっくりとまぶたを開けた。


「大丈夫か?」


 近くで聞きなれた声が聞こえた。


 私はすぐに返事はできなったが、ゆっくりと腰を起こした。


「ハルキ……」


 私は抱きついた。シャツに染み付いた汗のにおいと生暖かい感触だった。


「こんなに動いて大丈夫なのか? ユウカだけの身体じゃないだからな。」


「わかってる。先生も大丈夫っていったから。」


「そうか…… 無事よかった。」


 すごく嬉しかった。夫の暖かいぬくもりを感じ、幸せといえる時間が続いていた。


 コンコンとドアをノックする音が聞こえた。


「ナカタ様、失礼します。替えのタオルをお持ちしました。」


 照れを隠すようにサッと離れた。


「どうぞ」


 ハルキがいつもの丁寧な口調で言った。


「失礼します。」


 看護師さんが何枚かタオルを持って入ってきた。


「気分はいかがですか?」


「ええ、大丈夫です……」


 ぎこちない感じで答えた。


「あまり、無理はしないでくださいよ。こっちも結構大変ですから…… 今は落ち着きましたけど…」


 タオルを何枚か置きながら、やや単調な口調で、足早に部屋から丁寧に出て行った。


「何かあったの?」


 ハルキが驚いた様子で私を見た。


「覚えていないのか……?」


「覚えてないって…… 私、気付いたら病院にいたし、今日、ハルキと朝ごはん食べたところしか覚えてないし…… 何かあったの?」


 ハルキの顔は少し戸惑っている様子だった。


「巻き込まれたんだぞ!」


 声を抑えつつ強い口調で私に向かって言った。


「何に?」


 私は事情がわからず、こう反応するしかなかった。


 すると、ハルキはズボンのポケットからスマホを取り出し、私にあるニュース動画を見せた。


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 昨日14時頃、コウベ市ニシナダ区を中心に多数の人が倒れているという現象が起こりました。現在でも救助活動が行われており、コウベ市消防局によりますと、屋外を問わず、人が倒れている状況であったため、未知の化学兵器の使用を考慮し、防護服で倒れた人の救助を行っていたこと。しかし、その後、調査により、化学兵器の使用は認めれませんでした。自衛隊による救助活動も行われていますが、現在の死者が確認できるだけで2000人を超えており、政府は……

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 私は息を呑んだ。スマホに映るニュース内容が現実だと思えなかった。


「何これ、嘘だよね……」


「嘘じゃない、ユウカもこれに巻き込まれたんだ… 必死だったよ。大阪でこのニュース見たとき、急いで連絡したけど、連絡できなくて… 君の両親はだったけど、病院探すのに苦労したよ。でも、ユウカが無事でよかった。」


 私は出来事対して、夫の話の内容を処理できなかった。私の住む町でこんな訳の分からない事が起きて、病院にいるのは、この事が原因で私は今ここで寝ている。


「今、何時?」


 私はボソッと聞いた。


 ハルキはスマホの時計を見て、「今は、18時26分」


「何日の?」


「えっ~と、9月の15日」


「私、いつから眠っていたの?」


「わからないよ、来たときから眠っていたから……」


「いつ頃に来たの?」


「多分、18時頃かな?」


「そう……」


 私はこの事実を受け止め、その思いを整理しながら、しばらく当時のことを思い出そうとしたが、思い出すことがでなかった。

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