スツーカ・スツーカ・スツーカ

 神経を逆撫でするような不協和音。かつて連合国の兵士も恐れた音だ。JU87 急降下爆撃機スツーカ。上空から一気に急降下し爆弾を投下する。その際に生じるサイレン音は「ジェリコのラッパ」と呼ばれた。


「来るぞ!」

「スツーカだ!」プレイヤーたちは次々に散らばる。固まっていればそこに爆弾を投下されてしまう。

俺たちは離れた場所にいたので物陰に隠れつつ様子を伺った。

サイレンの不快な音が大きくなる。一部のプレイヤーたちは負けじと弾幕で応戦している。

突然サイレン音が止まったかと思った瞬間、爆発と共に5人のプレイヤーのデス通知がキルログに流れた。

「うおー、こわ。」ふくよかは胸を抑える。


パァン!という音が外から聞こえた。ゲームの音ではない。リアルな音だ。

「何?」いろはは辺りを見回す。

「ちょっと外見てくる。ちょっとゴーグルずらすだけなら大丈夫だよな?」ふくよかは不安そうに尋ねる。

「髪を直すために2回くらい取ってるから大丈夫。」いろはが頷く。

「わかった。見張っててよ。」ふくよかはそう言って固まる。ゴーグルを外したのだろう。


「おいおいおい!マジかよ!ちょっ、外見ろ外!」ふくよかが騒ぎ出す。

俺も急いで部屋の外を見る。言葉を失った。

俺は呼吸を整えるとゴーグルを付け直す。

「何があったの?」いろははしきりにふくよかに尋ねている。

「見ない方がいいって。」ふくよかはいろはを嗜める。

「ああ、見ない方がいい。」俺も同意する。

「なんで?」いろはは不服そうだ。

「爆薬で頭を吹き飛ばされて脳みそが見えてる死体が引きずられるところが平気なら。」俺は何も知らないのも可哀想なので少し情報を出す。

「無理無理無理!」彼女は縮こまる。

そう言っている間にもまた爆発音が聞こえる。また誰か死んだようだ。

「とにかく、マジで死ぬっていうのは本当みたいだな。」ふくよかは焦る。

「そうみたいだな。夢に出そう。」俺はしゃがみ込む。

「でも、ゲームで死ぬとリアルで死ぬのは本当みたいだな。」

「そんな、じゃあ本当に、」彼女が言いかけた時また一機スツーカが近づいてきた。

「また来たぞ!隠れろ!」

「ボートはまだか!」と扉の向こうから怒号が聞こえ始める。

さっき二人が死んだことで皆ついに事の深刻さを理解したのだ。


そんな中ついに第一陣の船が到着した。これに乗って帰れた者から航空兵や船員になれる。

「私たちも乗ろう!」いろははボートを指さして駆け出す。

「ダメだ!待て!」俺は思わず止める。

「なんで?」彼女は声を荒らげる。

「ダメなんだよ、最初に乗るのは。」俺は彼女を嗜める。


我先に初期スキンのプレイヤーたちが乗船しようとする。おそらくこのゲームに参加している被害者たちだろう。止めに行こうとも思ったが再びエンジン音が聞こえてきた。変に動けば的になる。俺は諦めて物陰に戻る。

最初のボートに乗るくらいならここで的になっていた方が安全だ。


定員を乗せた船四隻が一斉に動き出す。

第一陣の船は数が少ない上に大きく的になる。航空支援もない。

三機のスツーカはビーチにいるプレイヤーを無視して船に襲いかかった。

サイレンと爆発音水柱が上がる。三隻の船は直撃、又は至近弾で沈没する。キルログが流れると共に扉の向こうからパンパンと破裂音が聞こえる。反響してよくわからないが、4、5人はやられた。止められなかったことを激しく後悔する。

しかし、残りの一隻の船はスツーカ三機に狙われながらも、まるで航空機の動きが読めているかのような動きで三機を振り切ってエリア外に消えた。おそらく余程の手練れだろう。あの船に乗れた者は運がいい。後方に移った場合そのまま出撃しなければ死ぬことはない。

あれに乗っていればと少し考える。宝くじの当選番号をニュースで見た時と同じような気持ちだ。

とにかく次のボートまで安全なところにいよう。桟橋から離れれば狙われる確率も低くなる。俺は二人に呼びかけて安全そうな場所に移ることにした。

「誰も死ぬなよ?」俺はリー・エンフィールドの弾を確認しながら呟いた。

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