第一章 ダンケルク撤退作戦

ダンケルクスポーン

諸君、ドイツ軍の攻撃により我々英軍はここ、ダンケルクに追い詰められた。だが、朗報だ。今本土から我々を撤退させるべくイギリス中のあらゆる船舶がこちらに向かっている。

もうしばらくの持ち堪えろ。カレーにいる部隊はそれまで時間を稼いでくれ。

ロード中の音声が流れる。


シーズン0から存在するマップであるダンケルク。このゲームモードでは、ダンケルクにいる兵士が目標人数が撤退し終わるまで、カレーの部隊がひたすらドイツ軍の陸上部隊を足止めするというルールだ。

もしもカレーが突破されれば海岸に密集した英軍側は高台から独軍の戦車に一方的に撃ち下ろされ壊滅する。陸上部隊の到着までにもルフトバッフェによる空襲を生き延びなければならない。

撤退後の兵士たちは航空機、軍艦の砲台、ボートを使い残りの人員を撤退させる。


開始位置選択画面が出る。1デスもできないならダンケルクに湧くのは危険だ。ボートが来て人員を輸送し始めるまでこの海辺は何度もインターネットで炎上騒動が起こるほどの理不尽ゲーを強いられる。脱出して航空兵や船員になったとしてもルフトバッフェの攻撃で乗り物ごとデスしてしまう。

かといってカレーも重装備の独軍に包囲され空からも攻撃される地獄なのでどちらも危険なことには変わりない。普段なら湧き直しでカレーとダンケルクを往復できるのだが、湧き直しイコール死なのでそれはできない。

俺は深呼吸をするとダンケルクの海岸に沸くことにした。そもそもカレーは突破されることが前提の場所なのでそこに湧くべきでは無い。だが、俺は普段カレーで遊んでいたのでこちらの戦いの経験は浅い。

目の前に砂浜が広がる。装備はリーエンフィールドライフルにマーク4リボルバー、手榴弾、ナイフ。完全なる初期装備だ。スキンも初期スキンだ。まあ、この方が目立たなくて良い。

そんなことを考えていると、いきなりボイスチャットが聞こえてきた。

「おい、なんか俺閉じ込められてるんだけど!」男の怒号が聞こえる。

「俺もだ!お前もか?」

「だからそうだって言ってるだろ?」

「怒るなよ!」と数人が言い合いしている。


「今海岸にいますか?」

「今ダンケルクにいる。」

「俺カレーなんだけど!」と怒号が飛び交う。


すると、いきなりリアルな声が聞こえる。

「あの、この牢屋の周りの人はどこに湧きましたか?」向かいの牢にいた女性の声だ。

「俺ダンケ。」隣の部屋の太った男の声が聞こえる。略すな、何がダンケだ。

「俺もダンケルクにいる。」俺も大きな声を出す。

「じゃあ、私もダンケルクに湧きます!ビーチですよね?」女性が言う。

「そうだよ。ビーチ。」

「そうそう。」俺ともう一人の男は同意する。


「あのさ、俺らどっかで合流しない?」太った男の声だ。

「そうですね。しましょう。」女が同意したので俺も同意する。

俺たち3人は破壊された野砲の近くに集まった。

「あの、さっき声かけてくれた人ですか?俺は女性兵士に尋ねる。」

「結構声かけてる人いそうなのでどれかはわからないです。」女性兵士は答える。

「えっと、あの、青のインナーカラーの。」俺は人違いを恐れて尋ねる。

「それ多分私です。」女性兵士は頷く。

「おーい!」向こうから黒人兵士が走ってくる。

「あの派手髪ともう一人の男前君だよね?」太った男性の声だ。

「あなたは、さっきのデb…ではなくてあの、ふくよかなな男性ですか?」女性は尋ねる。

「ああ、そうだよ。俺もデブなのは自覚してるからデブでいいよ。」黒人兵士はそう言って親指を立てる。

「そんな、デブじゃなかったですよ?」女性はフォローする。

「いや、気使わなくていいから。俺デブなの。」男は首を振る。

「デブ談義よりもまずこの状況について話し合おう!」そう言って俺は間に割って入る。

「そうですね!まず自己紹介とか?」女性が焦りながら言う。

「そうだね。本名は晒したくないからネットの名前でいいかな?」俺は申し訳なさそうに申し出る。

「じゃあ、それで行く?私も本名晒せないし。」女性も言う。

「自宅凸とかされるもんな。」ふくよかが言う。

「私はiroha_1999って名前でゲームやってます。」

「へえ、可愛い名前じゃん。」ふくよかが感心する。いろはは照れる。

「俺はM_YAMATOって名前でやってる。」俺も自己紹介する。

「ヤマトか。かっこいいじゃん。」いろはもニコニコしながら言う。

「あなたは?」いろはは隅で小さくなっているふくよかに尋ねる。

「まず前提として聞いて欲しいんだけど。俺高校生の頃相撲部だったの。それで、その時のユーザーネームはChanko_123だったわけ。それで、家に友達呼んでゲームしてたの。それでトイレ行ってる隙にそいつに名前変えられてさ。それで俺の名前今はチン…」

「わかった。もういい。」俺は遮る。

いろははフレンドリーファイア無効なのをいいことにふくよかを三発撃つ。

「お前はふくよかって呼ぶから。」俺は宣言する。

「なんか福岡みたい。」ふくよかは笑った。



「だが、大変なことになったな。ゲーム内でデスするとゴーグルが爆発して死ぬなんて。」俺は頭を抱える。

「たしかに、デスしたら死ぬんでしょ?」いろはは焦りながら答える。

「ドッキリとかじゃ無いの?」ふくよかが驚く。

「ここまで手の込んだことやらないでしょ?モロ違法だし!」いろはは怒る。

「でも、テレビ局ってよく芸人を拉致監禁して笑い物にしてるじゃん。」ふくよかは口を尖らす。

「でも、テレビは動画投稿者を目の敵にしてるから…」いろはも反論する。

「そうだな。ただ、そろそろ…」俺が言いかけたところでエンジン音が聞こえてくる。

「きた。」俺は顔を引き攣らせる。

「もう来たな。」ふくよかも声を絞り出す。

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