星空と竜の原(1)

 二日後、今までの雨が嘘のように空が晴れ渡った。

「きっと、卵を迎えに来た竜さま方が雲を払ってくださったんです。この町にはそういうことがあるんだって、むかし祖母が話してくれましたから」

 そう教えてくれた女将に、二人は礼を言って宿を出た。

「ありがとうございます、女将さん」

「行ってきます、女将さん」


 町の外の道は数日間の雨で沼地のようにぬかるんでいた。

 一歩踏み出すごとに、くるぶしの深さまで足が泥の中に沈みこむ。進むのは思った以上に時間と体力を使った。

 卵を抱えなおした拍子に足を取られかけたリリの体を、前を歩いていたリラが支える。

「ありがとう、リラ」

「うん。もう少しだから頑張ろう、リリ」

 蒸し暑い日差しの中、二人は玉の汗を浮かべ、ふうふうと息を吐きながら歩き続けた。泥の道はいつの間にか途切れ、雨に倒された草花の敷きつめられた野に変わっていた。


 りゅうはらに着いたのだ。


 カラコロと一足ごとに鳴る鈴が疲労の音を響かせる。夏神殿を出た当初は真新しかった装束も、今は雨や草、泥などの染みにずいぶんと色を変えていた。

 前を歩いていたリラがふと指を差した。

「見て、リリ。物見台だよ」

 平原の真ん中に石造りの小さな塔が見えた。中央には屋根があり、四方は辺りを見渡せるような手すりが備えられている。息を切らしていたリリも小さく笑みを浮かべた。

「……あそこで、夜まで待てるように準備しないとねえ」

 そう言って、雨に沈んだシロツメクサの野をゆっくりと踏みしめた。

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