第22話 目覚め


 「シルフ……」


 もにゃむにゃと重い瞼をこするシルフの姿を見て、ぼろぼろと涙がこぼれる。

 我慢できず流れ続ける涙を袖で拭い、元気そうな彼女は眺めて安堵した。


「フェニ? なんで泣いてるの?」

「元気そうで、良かった」

「……シルフやばそうなかんじだった?」

「結構、やばかった」

「ほー……だから服がぼろぼろなんだね。寒いや」


 何かまともに着せられそうなものはないかと探していると、久美は自分が来ていた黒い上着をよこした。


「それ、良いよ。あと何か着られそうな服持ってくるね」


 そう言って席を立ち、久美は扉から外に出ていき、入れ替わるように自分と同い年くらいであろう少女が、ココアが入ったカップをお盆にのせて部屋に入ってきた。


 久美と同じ艶やかな金髪を低めの位置で1つに結んだ、伏せ目がちな青い目をした少女は、こちらを無表情で見つめていた。


 気まずい雰囲気をどうしようかと動揺している俺を気遣ってくれたのか、それとも別の理由か、シルフがその少女に声をかける。


「ねーねー、お姉ちゃんは誰?」

「………く、くぇ…」

「くえ?」

久遠くえん

「くえんちゃん! それなあに?」

「えっと……、ココア。お姉ちゃんに、た、頼まれて」

「そうなんだ! ありがとう!!」


 シルフは無邪気に笑って、久遠さんの持ってきてくれたココアを受け取り、ごくごくと飲みだした。

 ココアからは温かそうな湯気がもくもくと出ていて、熱々に美味しそうなのが見て分かる。


「あの、あなたも……」

「フェニもだって」

「あ、ありがとう、ございます」


 頭だけ軽くお辞儀をして、久遠さんからシルフに受け渡されたココアを受けとる。

 冷えていた手がじんと温まった。


 早急にシルフの両親のもとへ向かいたいけれど、どっちにしろシルフの服が届くまでは待つ必要がある。

 シルフを置いて俺だけ向かうのは、ここが博愛帝国であれ――だからこそ厳しい。


 この王族の風習からいくと、変な人までこの城にいれて、それによりシルフが被害を受ける可能性を否定できない。


 熱々のココアをふーふーと息を吐いて冷ましてから口をつける。思った通り温かくて、これまた思った通り美味しかった。

 甘くて滑らかさが丁度良い。


「……温度、大丈夫ですか?」

「あ、はい」

「おいしーよ!」


 久遠がポツリとこぼした問いかけに対して、俺とシルフがそれぞれ返事をする。

 久美はまだ来ないのだろうか。


「ごめんねー、遅くなって!」


 にこやかに入室してきた彼女、くみさんの髪は若干乱れていて、急いで来てくれたのだと分かり心の中で深呼吸をした。


「着替えよー」

「はーい!」


 そのやりとりは本当に何気ないものだった。

 だが俺はその時確かにとてつもない悪寒に見舞われた。



 そして意識はプツリと途切れて。

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