第21話 蘇生薬をめぐる
「ようこそ。話は聞いているわ」
目の前の扉が開き、艶やかな金色のロングヘアの女子がひとり丁寧に出迎えてくれた。
シルフを抱いた彼女に連れて行かれるがままに案内されな場所は、応接間と書かれたプレートの掛けられた部屋だった。
内装は至ってシンプルであり、家具は、電灯が一つ、低めのテーブルが一つとソファーが二つのみで、他には窓がありそうな縁が見えたが、漆黒のカーテンがそのあたりを塞いでいて、それが窓なのかは確認できなかった。
「ここ座って」
金髪の少女は、指し示された3人掛けのソファーに腰を降ろし、動悸が止まない俺の頭をゆっくりと撫でる。
「すぐにでも助けてあげたいんだけど、そのためには別のある子とも話し合わなくちゃいけなくて……」
「待てない――!!」
気がつくとそう叫んでいた。
自分でもそんな大声を出したつもりはなかったため、直ぐに「すみません」と縮こまって謝罪した。
尋常でなく焦っている。
少女は「大丈夫よ」と言ってくれたが、シルフを一刻も早く助けたいのならば、指示された通りに大人しく待たなければならなかった。
この場にいるのがもしもアイツだったなら、こんなにも慌てたりなどはしなかっただろうし、いちばん信頼できる場所を何とかして調べたかもしれない。
俺なんて居なくてアイツがいれば良かった。
あの時は気が動転していたからなどと言い訳をするつもりはない。
どんな状況になったとしても、その時その時の最善の動きができるヒトでないと、戦争で早期に死することとなる。
その後一分も経たずに扉がノックされ、金髪の少女とノックした者が短い会話を交わした後、薄桃色のロングヘアの少女が部屋に入ってきた。
「久美、まさか相手ってこいつ?」
「知り合い?」
「一応」
やって来た彼女の事は知っていた。
学校で会った、顔は良いが口は悪い女子、ラビジェルと言ったか。
教室内で青竜のやつと大声で喧嘩をしていたのを覚えている。
「それならって訳じゃないけど、早速二人で話し合ってほしいの。一応言っておくけど、二人とも治癒したい人がいて薬が一つしかない状態。どっちに使うかなるべく早く決めて」
パンっ、と手のひらを鳴らす音を合図に、六歳の俺達のとても短く幼い戦いの火蓋が切られた。
「ジェルは早く起きないとだめなの! 早くしないと強くなれないの!!」
「それならシルフだって同じだ!」
「違ーう! ジェルには世界平和のユメがあるんだってばー!!」
「シルフにだって夢くらいある!」
「ラビはジェルじゃなくちゃやだ!」
「どうしても今じゃなくちゃダメなんだ! シルフの両親に最後に会わせたいんだ!」
「っ――」
そう叫んだ途端、ラビジェルが言葉を詰まらせた。
だが、不服そうにたどたどしくも彼女は言ってくれた。
「……久美、そいつにつかって」
「いい、の?」
「放ってたら遺体まで潰されるよ。早くつかって。ジェルなら数年くらいまってくれるよ」
「……分かった」
くみ、と呼ばれていた少女は、扉の外に置いてあったであろう銀色のコンパクトなケースを何故か廊下から持ってきた。なんと無用心な。
手慣れた仕草でケースから一袋の青い粉薬を取り出し、シルフの口にサラサラと流し込む。
怪しい薬でない事はアイツが培った知識から分かった。
あれは確かに、蘇生薬――。
シルフは死んでいたのか。
分かってはいたのだが信じたくなかった。
でもシルフは地下の世界から蘇った。
その幼い命はここで途絶えずこれからもずっと続いていく。
―
―
―
「ん」
鮮やかな黄緑色のサイドテールを揺らし、寝かされていたソファーからシルフが体を起こす。
それを確認したラビジェルが廊下へ飛び出し、僅か一瞬後隣の扉がバンっ、と音を立てて閉まった。
ラビジェルの言っていたジェル……確かクラスに居たような気がする彼女は、隣の部屋に居るのだろうか。
「もふ、もふ、だね……」
β∴*あとがき∴*β
ここまで読んでくれて感謝しかないです(*- -)(*_ _)ペコリ
蘇生の薬は凄く貴重ですが、王族は一から三個ほど常備しております。
久美たち第三王家はお人好しの集団なので、どうしても欲しいと望んでいる、かつ、蘇らせるべきヒトが死者の場合には今回の様に渡してしまいます(若すぎる子、理不尽な他殺など)。
時間軸としては、気絶、死まではいかずとも爆撃で怪我を負ったラビジェルが、やっとの思いでたどり着いたこの星で皇子に助けてもらい、エンジェルを城に連れてきた少し後です。
これからも応援してくれると嬉しいです!!
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