第三章 不死鳥と光ノ星

第20話 ふたり 始まりのあの日


「どうか……! どうか、シルフを!」


 何故こんな事になってしまったのだろう。

 俺が不甲斐ないばっかりに。


「助けて、ください……」

「大丈夫」


声の主は優しく笑い、俺が抱えていた小さな少女をそっと抱いた。


「私たちに任せて」



 * * * * *


入学式の日。


「……今、何時だろう」


 目を覚まし、壁に掛けられている時計を見て時間を確認する。


 一時。一時?


 早起きしすぎたにしては日がしっかり出ている。


 体を起こし念のため窓から外を見てみると、案の定真っ昼間だった。

 そう言えば、朝の何時間かは学校に居た記憶がある。


「また、アイツかな」


 同じ体に存在するもう一人の自分の存在。

 そいつの存在に気づいたのはおよそ二年前―四歳の頃だったか。


 気づいたら時間が進んでいることが多く、やってもいない事をやったと言われ、してもいない事をしたと言われる。


 二歳の頃に親に捨てられた俺でも流石におかしいと気付き、ノートに「誰ですか」と書き留めていたものに返事が来た時確信した。

 俺以外にもこの体を使っている誰かがいるんだと。


 質問交換をしたりする内に、そいつの事がだんだんと分かってきた。


 真面目で努力家、向上心があり気が強い。

 ややプライドが高いがまあ良いやつだ。


 そいつのお陰で『力』も高火力のものをばんばん使えたり、勉強に困らなくなったりと、とんでもないやつでもある。


 そんなやつと、入れ替わる度に大雑把な行動をメモしていくメモ帳を今は使っている。


「{教師に暴言後帰宅、勉強三時間、睡眠}」


 暴言――。

 プライドが高いやつだとは思っていたが、あのタイミングで入れ替わり、しかも暴言とは――。


 なんかさっぱりした気分なのはそのお陰かな。

 でも明日からを考えると怖い。


 あいつじゃない俺自身はそんなに強くない。

 頭脳だって運動だって、『力』だって何もかも、あいつが頑張ってくれているから俺の状態でもやれるだけ。


 俺の状態では、どれだけ努力したってあいつに追い付けない。

 唯一家庭科系統は俺の方が得意だけれど。


 と言うよりか、あいつがとんでもなく不器用なだけだ。

 俺の状態で練習しておいても、あいつが料理をすると墨か生ゴミか毒しかできなくて体調を崩す。流石にヤバいだろう。


「『力』――やっぱり、変なんだろうな」


 フォー・ビレイカ・L。


 あいつが一昨年の夏、いつの間にか習得していた能力。

 俺たちの体に一番合っている使いやすい炎の『力』――。


 それを披露したせいで疑われたんだっけ。

 別のにすれば良かった。

 そのせいでFenix、そして俺自身も嫌われたんだろう。


 俺の軽はずみな行動と、あいつの暴言のせいで。

誰が悪いのかなんてくだらない事を考えているうちに、いつの間にか俺は眠りについた。


 * * * * *


 爆音が響いた。


「――!?」



 目を覚ますと窓は砕け散っていて、あいつとふたり暮らしていた家は粉々に。

――戦争だ。


「……シルフ!」


 自動再生する自分の肉体は痛みがあろうがどうでも良くて、一人になった俺をその両親共々生活を支えてくれた、お隣に住む一歳年下の少女を探す。


 彼女達の家跡にあったのは、三つの焼死体。


 大きいものが二つ、小さいものが一つ。


「シルフ……叔母さん……叔父さん……」


 全員確実に死んでいた。

 皮膚は焼けただれ、身体はいくつにも分散されていた。


「っ!」


 せめてもの思いで、あいつと一緒に覚えた治癒能力、スリー・ゼリオ・Mを使う。

 戻ったのは肉体の美しさのみ。


その生命は戻らない。


それなのに諦めきれなかった。


 ボロボロの布切れを纏うシルフを、自分の来ていた完全防熱の上着でくるんでそっと抱き抱え、翼を広げて羽ばたく。


 炎に適正があるこの体の翼は燃えない。

 それどころか炎で力を得てスピードを増す。



 どこか遠くへ、シルフを助けてくれるヒトの元へ――。



 息を止めて宇宙を飛び、闇の星に降り立った。

 ここは俺たち化物界に友好的であり、そして規模の大きい星だと聞いたことがある。


 ふらつきながら、人気ひとけの多い所へと向かう。


「博愛、帝国」


 導かれるかのようにたどり着いた国の入口ゲートには、そう書かれていた。


〈ようこそ博愛帝国へ! 皆で楽しみましょー!〉


 なんとも無用心な国だとは思うが、国を通るのに許可がいらない事がありがたくてそこに入った。


 ボロボロの俺たちは気味悪がられる事はなく、国民は温かい言葉を投げてくれて、案内されたのがこの国の城だった。


「ここなら君たちを助けてくれる」と。



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