第14話 世界平和の新たな仲間+おまけ


 今は気持ちだけでも「強くありたい」だけで良い。

 力不足がでしゃばると勝手に死んで迷惑をかけるだけだ。

 心持ち強く、そしたらいずれは力だってつくはずだ。


 そう思い発言した言葉の余韻に、小さな拍手が重なった。


「素敵です。とっても素敵ね、エンジェルちゃん」

「え?」

「世界平和は目標であって夢じゃない。この先必ず達成させるもの……ってことを言いたいのでしょう?」

「はい……」


 エンジェルの目標のことを言っているのだろうか。だがそれが素敵な訳がない。

 言っていることは端から見ればただの綺麗事。


 では何に対して――?

 その答えは久美くみ本人の口からはっきりと告げられた。


「私の方が年上なのに、見てるものが全然違うから。あなたの見てる景色はきっと綺麗なのよね。命を奪い合う大きな争いはなくなって、人々が安心して笑える世界を見てるのね。それはすごく素敵だと思うわ」


 下睫毛を小さなしずくで濡らし、うっすらと赤みを帯びた頬で彼女は笑う。


「闇ノ星は、化物界ほど戦争は起こらない。でも戦争が起こらない訳じゃないの」


 闇ノ星は様々な面で大きな星であるので、戦争がある程度頻発していたとしても驚きはない。

 やっぱり、といった程度だ。


 久美の大切な人も、きっと何人も亡くなったのだろう。


「私の親戚戦争で何人か死んじゃってるんだよね、蘇生薬が使えないぐらい無残な姿で。けっこう仲良くしてた人も死んじゃってるのに、私は今平然と笑ってる」


「前を向いて生きている、ってことでは?」


「良く言えばね。でも実際はそうじゃない。あなたみたいに綺麗な景色は見えてなくて、暗い世界で次死ぬのは誰だろうって恐れてる」


 仕方のないことだと思う。


 戦争が起こらなければとは思っても、止めようとする人などほぼいないものだ。いてもすぐに潰されるのが王道で。


 戦争に批判=死刑という星の少なくないこの宇宙。

 化物界だって似たり寄ったりで、戦争を止めようとするなとは言われないが、戦争のために『力』を磨けとは言われる。


 「自分が強い」「自分が代表」といった思考を持つ者が頂点に立てば、必然的に戦争社会に成り果ててしまう。


「それでも終わらせたい思いは一応あるのよ。あのね、エンジェルちゃん」


 久美は両手でエンジェルの手を取って握り、真っ直ぐな瞳でエンジェルを見つめた。


「あなたさえ良ければ協力させて。あなたの世界平和の計画を手伝わせてほしいの」


 正直な気持ち、仲間――協力者が増えるのはおおいに助かる。それに――


 私はこの目に弱いんだ……


 自分を伝える真摯な瞳。

 入学式の頃にかっこいいと思った龍東あの人みたいな。

 そんな目を向けられると、その真っ直ぐな思いに応えたくなる。


「ぜひ」

「――!」

「ぜひ、協力していただきたいです」


 こうして、宿と薬を持つ闇ノ星の少女、久美が仲間になった。



――翌朝


「ん~っ」


 壁に掛けられた時計を見ると、指し示される時刻は5:20。


 ベッドから体を起こしたラビジェルは隣のエンジェルの部屋を覗く。

 珍しく今日は目覚めが良いため、普段は見られないエンジェルの寝顔が見れるのではと思ったのだ。


 想像通り、姉はすやすやと寝静まっている。


 温かな布団にくるまっているのは確かに姉だ。緊張感のない安らかな寝顔。


 その寝顔をもっと近くで見ようと部屋に入ると、エンジェルの隣に久美が寝ていた。


「――!!」

 

 瞬時芽生えた怒り。

 ラビジェルという妹の特権であった「一緒に寝る」が奪われた。


 よくも唯一の姉をと言った怒りの衝動に身を任せ、気づいた時には寝ているエンジェルの上に乗っかっていた。


 ここは、ここだけは譲れないラビジェルの特権。


 身長が高くなっていようがエンジェルの妹はラビジェルただ1人。

 ラビジェルを甘やかしてくれる優しくてしっかりしたお姉ちゃんは、ラビジェルただ1人だけのもの。


 寝ている姉に乗っかり抱きつきそのまま安眠。

 再び起きたときにはどうやら久美をベッドから落としていたようで、久美にたくさん怒られた。

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