第11話 博愛帝国と化物界 終
「……」
「……」
沈黙が流れる。
そんなにまずいことを言っただろうか。
普通に考えたらそうなるでしょう。
「だめですか?」
「いや、そうじゃない。むしろ最初からそう言うべきであった。――契約しよう」
「まだお父様達に話してないのに」
「俺は今日ここから出ないといけないんだ! どうしてもだ!」
「……じゃあ来月までに貴方から話しに来て。そしたらけーやく、してあげる」
今でも私は、この決断に後悔なんてしていない。
困っているこの人を助けたいだとか、早く出ていってほしいという思いで、将来を約束する相手を決めてしまった。
この先巡り会えたかもしれない運命の人と、愛を誓い会う事すら叶わなくなってしまったのだ。
けれど、それを上回るほどの幸福が待っていたから。
「感謝する。ではあいつにはそう伝えよう。貴様はもう眠るがいい」
「そんな偉そうに言われなくてもそうするつもり」
「じゃあ、また来月までに」
「早くしてよ」
セツナがいると安心して眠れない
「そうだ、契約に基づいて貴様の弟妹にはとある一種の暗示を掛けた。悪いものではない、とだけ言っておこう」
そう言いながらセツナは、ベッド横にある窓に手をかざし――
「すごい」
そのまま彼の体は窓の外、漆黒の星空へと消えていった。
* * * * *
朝八時。
「全部全部、あいつのせいだ」
深く掘り下げればセツナの知り合いが悪いのだが、
「あーもう、面倒くさい」
『姫だから』と着る事を強要されているレースのドレスの、背中の紐をいくつもリボンに縛っていく。
朝食には遅れたが、シェフ一人相手なら適当なことを言って誤魔化すつもりだ。
朝食はいつもひとりで食べている。
じっくり10分ほどかけてドレスに着替え終わると、
寝不足のせいか、慣れたはずの低いヒールがバランスを崩しそうになるし、ドレスの裾を踏みそうになるしで途中何度もヒヤリとした。
ノックをして食卓に入ると、やはり家族は誰もいなかった。
ホッと胸を撫で下ろして自席につく。
冷めたビーフシチューをスプーンで口に運びながら、昨晩のセツナの台詞を思い出す。
嘘かもしれないはずなのに、想像するだけでもうにやつきが止まらない。
考えるだけで胸がいっぱいになって、いつものお上品な食べ方は捨てて、頬いっぱいに食べ物を詰め込んで、食器を片付けた。
シェフさんの小言が聞こえたが、無視を決め込み
早く会いたい。セツナの言葉が嘘だとしても確かめたい。
「
たどり着いた部屋の扉をノックする。
「部屋、入れて!」
お願い。顔を見せて――。
急に、肩にツンっと誰かの指先が触れた。
ギュッと目を閉じていたから、扉が開いていた事には気づいていなかった。
暫く会っていなくても間違えない。
これは、この手は――
「みーかどーぉぉ!!」
目の前に佇む最愛の弟を、これでもかというくらいに強く強く抱き締めた。
「うわーん! 会いたかったぁぁ……!! 会いたかったよぉぉ!」
「お姉ちゃん、大げさだよ」
「そんなことないよぉぉー!!」
大粒の涙がボロボロと溢れるが気にしない。
そんなものためにハグを止めるだなんてしたくなかった。
* * * * *
「ってこと! その後ちゃんとセツナと知り合いさんは来てくれてね、お父様も納得してくださったの!」
「良かったですね」
「タメ口で良いってば!」
「そうだよジェル。こんな奴に敬語使うほど無駄な労力なんて存在しないから」
「ラビジェルちゃん ちょっとこちらにいらっしゃい。お姉さんがおしおきして、あ・げ・るっ」
「やだ!」
途中、これはアウトではという事もあったが、
部外者が口出しする問題ではないと判断した。
「
「気になる気になる!? それがね、かなりイケメンのお兄様でさぁ!」
「
「うっさい! そーゆーことばっかり言うんならこうしてあげます」
ラビジェルの笑い声が響いて来て、今度ラビジェルが悪いことをした時の罰にでもしようかなどと考える。
そうした平和な光景も束の間、
まるであの日の昼みたいな壮大な爆音と共に視界が真っ暗になった。
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