第8話 博愛姉弟の秘密
開いた扉からひょいと顔を覗かせたのは、10歳前後の金髪オッドアイの少年。
群青と深緑の目をぱちぱち瞬きさせながら、そっとこちらの様子を伺っている。
「久美、エンジェルさんは……?」
「元気に目覚めてくれたわ。帝のお陰よ」
少年に柔らかく微笑む久美。名前を呼んでいたから、彼が久美の弟だという帝だろうか。
エンジェル達を気遣うように眉尻を下げていて、その表情からはどこか優しさが滲み出ている。
「俺のお陰じゃないから、全然。それと、……あの、エンジェルさんに、謝らないといけないことが」
「なんd」
「帝!!!」
申し訳なさそうに話を切り出そうとした帝を、久美が声で制止する。
「いいから今は言わないで」
「でもそれじゃ、エンジェルさんが」
「帝の気持ちは分かるわ。でもお願いだから、もう少し待って」
「早く知れた方がいいだろ」
「だからって今はやめてほしいの!」
何のことだか分からないが、2人は私に関する何かで揉めている様子。
ラビジェルは不思議そうに目をぱちくりさせているだけで、何1つとして理解できていないようだ。
口を挟むのもはばかられる状況で、私は何も言えずにうろたえていた。
「もういい、久美がそこまで譲らないなら諦めてやる。――エンジェルさん、ラビジェルさん、お騒がせしてすみません」
「私も、ごめんなさい。うるさくしちゃったわね」
皇子達に頭を下げられた私は「大丈夫です」と両手を振り、ラビジェルは「だいじょぶだいじょぶ。ラビより静か」と平然として言い、それぞれで気にしないでと主張する。
「それでも迷惑かけちゃったことに変わらないから……。それに、今のあなた達はお客様みたいなものなのよ? ――って言っても、自分の家みたいにくつろいでくれたら良いと思ってるけど」
「いえ、私たちはあくまで
自分はあくまでも戦時下の星から救助されただけの立場のヒト。だからおもてなしを受けたりお客様扱いを受ける資格だなんてないはず。
そう思い否定したが、久美は頑として譲らなかった。
「いいえ、私たち闇ノ星の人たちがどれほど
闇ノ星と化物界での助け合いや関係は数多くの記録に残されている。
お互い良好な関係なだけでなく、互いにだけ許すこと、与えることも山ほどあった。
関係の例えでいくと、化物界に文字や勉学を与えたのは闇ノ星。その代わりに化物界は、独自の技術による精密武器を与えた。
闇ノ星が化物界にのみ許した、第一条の入国手続きなしから始まる"闇化友好条約"。化物界が闇ノ星のみに託した、類いまれなる『力』の使い方。
この博愛帝国も過去に化物界と何かがあったのだろう。皇子がここまで言うのだから、余程の事件でもあったのだろうか。
「久美さんには、そこまで思っていただける程の何かがあったのですか?」
「――今さらだけど、あなたって凄く丁寧に喋れるのよね。本当に小学1年生だったのかしら」
「……だった?」
「あっ、何でもないのよっ!? 気にしないで!」
そう言ってうろたえそっぽを向いて誤魔化す仕草に怪しさを感じたが、今は久美の話に耳を傾けることにした。
私の表情から疑惑が消えたことを確認すると、久美は落ち着いた口調で語り始めた。
「私が化物界を崇めるようになったのはね、今から5年くらい前――私が7歳の頃」
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