第6話 平和終了の鐘


“不正ではないか?”


 不死炎鳥の常人離れした『力』に、その可能性を考えた玄武がそう聞いた。


 この場合の不正として考えられるのは、

・組み合わせると誤作動の確率が高い別の『力』同士を掛け合わせて危険に『力』を使っている

・命をおびやかす違法の薬を使っている

の、2種類である。


「それはない……と、思います」

「どういうことだ?」

「自分だと、よく分からないんです。正しいのが何なのか、判断がつかなくて」

「知らぬうちに、不正をしているかも、と?」


 そのきつい言い方に怒りを感じたエンジェルが、「やめてください」と叫ぼうとしたのと同時、不死炎鳥をまとうオーラが一気に白く冷えた。


「―――!」


 彼が常時放出していた、溢れる『魔素』による薄い炎のオーラが消えた。


 『魔素』はこの世界の大気中に3割含まれる物質の名称であり、『力』の素となる。

 そして一定のヒトはそれを自身の肉体から常時放出することができ、それを『力』として使うことが可能だ。

 

「勘違いするな、俺はお前達とは違う。過去の奴らを基準にするのは馬鹿じゃないのか? 少なくとも、俺相手ならば不正を疑う前にまず自分の足りない脳を疑え」


 冷酷に告げた彼の表情には、先ほどの怯えは皆無であり、またその瞳は銀の輝きを失い灰色にくすんでいた。

 

 この豹変には玄武も動揺を隠せず、半歩退き、頬からは汗がにじみ出ている。


 そして、意味深な言葉を発した。


「……お主は、誰じゃ」


 数秒の沈黙の後に、赤毛の彼は声を発した。


「炎の鳥、Fenix」


 それから大きな翼を広げ、空へと飛び立っていった。


 1時間の自己紹介、彼は自分を蘇復とだけ名乗り、下の名前でたる不死炎鳥フェニックスを明かさなかった。

 そのため生徒皆は、この授業で玄武が名前を呼んだその時初めて名前を知った。


 当て字だからかそれとも他の理由からか。

 自分の名前が好きではないことだけは、何となく皆分かっていた。

 

 今回、「Fenix」と、流暢な他星の言語で名乗ったことにはどんな意味があるのだろうか、なぜ玄武が名前を聞いたのか。

 玄武の口からは告げられないまま、2時間目終了の時刻となった。



* * * * *


「疲れたぁー、ラビちゃん明日学校休みたーい! てか歩けなーい」


 五時間の授業が終わり十四時。


 エンジェルはラビジェルと2人で歩いて下校していたが、途中でラビジェルが立ち止まったためエンジェルも足を止めた。家まではまだかなり距離がある。


「もうちょっとでお家でしょ? 疲れたのは分かったけどもうちょっと頑張って」

「やだやだ無理ー! ラビちゃんもう歩けないんだってばー!」


 ラビジェルはわんわんと駄々をこねながら、荷物をそこら辺に放って座り込む。

 もう幼稚園児じゃないんだから、というエンジェルの呆れもガン無視だ。


「ほら、手さげと水筒は私が持つから」


 そう言って、ラビジェルが先程地面に放った手さげ鞄と水筒を拾う。

 教科書等も入ってるため自分の分と合わせるとかなり重いが、まだ持ちきれないことはない。


「ランドセルも持ってー」

「甘えすぎないの!」


 放られたランドセルを再びラビジェルに背負わせ、何とか立たせようと手をとる。

 それでも彼女は立ち上がらなかったので、「1人でずっとそこに座ってたら?」と言うと、


「うわぁぁああん! ラビちゃんを捨てるんだぁぁああ!!」と、泣き出した。


 あんまり放置するのも良くないからと、結局はエンジェルが荷物を全部持って、疲れはてた状態で家に着いた。


「た、ただいまー……」

「ただいまー!! ラビちゃんのキカン帰還ー!」

 

 靴を脱ぎ、玄関に荷物を下ろし、ラビジェルの分まで丁寧に揃えて家に入る。

 玄関はさほど広くないのだし、たまにお客さんも来るのだから脱ぎ散らかすのはやめてほしいものだ。


 というか、そんなにはしゃぐ元気があるのなら荷物ぐらい持って帰れたはずだがと恨めしく思う。


「おかえり、ラビちゃん、ジェルちゃん。あ、ラビちゃんったら荷物全部ジェルちゃんに持たせて! ダメでしょ自分で持たなきゃ!!」


 玄関からすぐ右にあるリビングからふたりの母が出迎えてくれた。

 戦争大星だから狭い家だけれど、一応リビング(と、呼んでいる狭い和室)はある。


「だって疲れちゃうんだもーん」

「ジェルちゃんだって疲れるの! ねージェルちゃん?」


 振られた質問に不満いっぱいの顔を作って答える。


「そうそう、2人分とかほんっときついんだから。ラビちゃんもいい加減にしなさい」

「じゃあママが持ってくれるならジェルに持たせなーい」

「それは甘えすぎでしょ!」


 自由きままなラビジェルと対するにあたって分かったが、彼女の好き勝手は少し面倒だ。

 確かにそれがプラスに傾くことは多いし嫌いじゃないのだが、不満も怒りもぐんぐん溜まる。


 でも、彼女はあまり人に嫌われない。

 やっぱりその笑顔と無邪気さ、明るさがとにかく愛くるしいからだ。


「甘えたいんだもんっ……ラビちゃん妹になったもん……お姉ちゃん嬉しかったんだもん……」

「ラビちゃん……!! お母さんうちの天使。荷物くらい私持てる」

「ジェルちゃん単純ね……。あんまり甘やかさないのよ」


 お母さんは苦笑してから、「それじゃ、手洗いうがいとしておくのよ」と言ってリビングに戻っていった。

 エンジェルは母の言う通り単純だし、シスコンである自覚は若干あった。


「ラビちゃん手ー洗おうね」

「うん! ラビちゃんが先ねー!」

「はいはい」


 当たり前に廊下に出て、いつも通りに洗面所(となっている井戸)に行こうとした時、それは始まった。




「「きゃぁぁぁーーー!!」」


 激しい衝撃と、とてつもなく強い光と炎。




 それが、





 ――怪光戦争かいこうせんそう(化歴ばけれき0086)の、始まりだった――




*∴あとがき∴*β


第一部完結です!まだまだ完全に序盤ですが。

これから始まるのは怪光戦争という戦争ですが、エンジェル達は今回はあまり関与しません。


とにかくここまで読んでくださった皆様に感謝です(人´∀`*)

誤字脱字、違和感あれば報告お願いしますm(_ _)m

未熟者なためよく更新してます。暇だったら読み返してみてください!

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