第5話 蘇復 不死炎鳥


 玄武の言葉に対して、それじゃああたしが……と、白虎の少女が電撃の『力』を披露した。

 所々黒白の混じる金髪をツインテールにしている、つり目がかっこいい少女だ。


 彼女の放った電撃もえげつなく、四獣の名を持つ名家の実力は鳥南の時と同様、皆圧倒された。


 その後も次々と皆が自分の『力』の披露をしていき、エンジェルは最後から2番目にすることとなった。

 1人1人の『力』に圧倒されていたら、ついつい自分が挙手するのを忘れていたのだ。


「次は、エンジェル・キャット」


「はい」


 大きく息を吸って、身体の奥から光が流れ出るイメージをする。

 皆が笑顔になるよう願いを込めて。幸せになれるように祈りを込めて。


 エンジェルの手のひらから、暖かくて柔らかい光が溢れ出す。

 それは木の枝を包み込み、葉を包み込み、木を包み込み、森を包んだ。


 そして、皆の攻撃の『力』によって傷ついた森は、かなり元の状態に近くなった。


 皆が驚いた目でこちらを見ている。


「すごい」「綺麗」といった呟きが聞こえてくる。


 生半可な覚悟で世界平和を望んでいるわけじゃない。

 だからこそ始めに欲して、他のどんな『力』よりも極めたいと思った癒しの『力』。


 幾度となく訓練を重ねた『力』だ。

 森が完全に直らなかったことは力不足が悔しかったが、一応は上手く使えたことに安堵する。


「素晴らしい、流石は未来の英雄じゃ!」

「ありがとうございます。でも、英雄っていうのは、やめてください」


 照れ隠しにそっぽを向いて断った。


 いつかはそう呼ばれる程のことをしたいと考えてはいるけれど、それは英雄と言う功績が欲しいからじゃない。

 ただ、できるだけ多くのヒトの不幸が減らせたら、それでいいのだから。


 大層な呼ばれ方をするのなら、強欲かもしれないけれど「英雄」よりも「女神」や「天使」など、癒しの『力』を認められた呼ばれ方をされたい。

 


「仕方ないのう……。では最後、不死炎鳥フェニックス


 名前を呼ばれて、くせっ毛の赤髪の少年が前に出る。


 蘇復そふく 不死炎鳥フェニックス


 赤、紫、金、銀の入り交じる大きな翼と、鋭い銀色の瞳を持つ炎の不死鳥の少年。


 彼の表情は、つり上がった眉を代表に今にも殺しをしそうな程に険しかったが、エンジェルは別の意味で不安を感じた。


 顔色が悪くなっていた上、口元が震えていて、明らかに怖がっているように思えた。

 険しい表情も、緊張や恐怖から来ているのかもしれない、とエンジェルは心配になった。


 それでも不死炎鳥フェニックスはしっかりした足取りで森と対事したので、今は何も言わないこととした。


「――――――――!」


 彼は無言で、握手をする様に指を組んで目を閉じる。


 その瞬間、彼の全身――髪、瞳、手、翼からとてつもない規模の炎が発生し、それは半径およそ50mにも達した。

 ぎりぎり見ている人達に酷い熱は届かない、安全の確保ができる距離。


 それだけでは終わらず、彼は右の人差し指を森のど真ん中に向ける。


 すると、指先から赤く輝く閃光が走った。


 エンジェル達観衆は、あまりの眩しさにギュっと目を瞑る。


 目を開けた時、そこに「森」と呼べるモノは残っていなかった。



 ――ただ、真っ黒に焼けた土があるだけ



「すごい……。すごい、すごいよ!! フェニックスだっけ、何やったの!?」


 鳥南が興奮気味に問いかける。より上を目指す彼女からして見ると、同じ炎の使い手、しかも格上の相手として気になるのだろう。


 不死炎鳥が照れくさそうに何か答えているのを横目に、エンジェルは考えこんでいた。


 あの『力』は、たった数年で身に付けられるものじゃない。これまでの記録によると、最年少会得者は炎のプロで、当時1250歳の男性。

 種族によっては万年生きる化物の中でも、生涯一度も使えず終わる者は99パーセントを上回る。


 六歳の少年がどうしてそれを使えるのだろうか。


 一方玄武も、エンジェルと同じ事を考えていた。

 齢6歳の少年が、なぜフォー・ビレイカLを使えるのだろうか、と。


 先程不死炎鳥が放った『力』の名称、フォー・ビレイカLは、炎×レーザー魔法の一種でありその頂点である。

 「フォー」は4段階に分かれている『力』の威力の最高位で、「L」は3段階に分かれている『力』の規模の最高位を表している。


 となると、お察しの通り余りの「ビレイカ」は炎×レーザー魔法の意となる。

 これは「日の星」と呼ばれている「ブァレン」言語で「赤い光」といった意味で使われる単語だ。


「蘇復 不死炎鳥、お主はその『力』を、どこでどの様に会得した?」


 低い声で多少の圧をかけて玄武が問いただす。どれほどの天才だとしても、この年でフォーLシリーズの魔法を使えるのは前例がない。

 ――不正をしていない限りは。


「……うちで、魔法を鍛えていたら、使えるようになりました」

「どの様に鍛えた?」

「えっと、普通に、ワン・ビレイカSからちょっとずつ……」


 玄武の圧に萎縮しながらも、彼はしどろもどろに答えて行く。


「どれくらいの時間をかけた?」

「お、一昨年の夏休みで……」

「およそ1ヶ月で使えるようになったと?」

「はい……。毎日1時間くらいの訓練で」


「―――それは、不正ではないか?」

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