第4話 『力』の披露


 エンジェルは可能な限り調べ尽くした。

 『人間』のこと、この星のこと、戦争のこと。


 その結果、理解することができた。



「戦争に意味はありません。私たちの星は、戦争なんてしない方が、平和な日常生活を送れます」


 今の自分たちの星の一番の問題は、他のどの星と比べても時代に遅れをとっていて、生活が不自由なこと。

 自星や僅かな同盟星だけではまかなえないものも多いため、より多くの他星との交流がないと、どうしても時代に遅れをとってしまう。


 それならば、戦争で生活を賄うなどしなくとも、他星との関係を改善した方が良いのではないか。


 こちらから歩み寄ることで、『人間』も、少しは恐怖を感じなくなるのではないだろうか。

 こちらの魔法技術を正しく『人間』と共有することで、よりよい社会を作れるのではないだろうか。


「『人間』から襲われたときだって、どうして武力で対抗するんですか、話し合おうとはしないんですか?」


「……話しあったことは一応あったんじゃよ」


 少し苦しそうに、寂しげな声で玄武は答えた。まるで、過去を思い出して後悔しているかのように。


「でも、そんな記録はなくって……」


 調べた限りではそうだった。誰も話し合いをして解決しようとしていなかった。皆が皆、即戦争。平和を望むヒトが出ないようにわざわざ洗脳教育をしていた時代まで存在していた。


 本当に、どの記録にも歴史の本にも残っていないような事があったのだろうか――。


「誰の記録からも消したんじゃよ、その話し合いに参加していた当時のわしが。話し合いの日、色々あったんじゃ。味方で生き残ったのはわしだけだった……。今詳しくは言えんが、1つお主に言えることがある」


 エンジェルは、ごくりと唾を飲んだ。



「――エンジェル・キャット、お主の意見は間違っているとは思わない。この星は他星と比較すると暮らしにくい、戦争ばかりはわしだって間違っていると思う。だが、分かってほしい」


「……はい」


「たとえ間違っていることだとしても、やらなければならないことはある。奪い合う争いが間違っていると思うのならばせめて、お主の言う平和が訪れるまでは、守るために『力』を磨くのはどうじゃ?」


 エンジェルはそっと頷いた。


 確かにそうだ。今現在の社会で考えると、戦争をやらなければこの星は終わる。

 そしてそれは、妹や義両親たちといった大好きな人達の死へと繋がる。


「今は、それで良いです。でも、いつかは戦争を終わらせるための『力』にします」

「お主の意見はよく分かった。わしは止めないからな、頑張れ」


 エンジェルは頷いた。今度は、さっきと違ってはっきりと大きく。


「他に意見がある者はいるか? 生徒の主張ならば何でも聞くぞい。わしはこの星で一番優しい先生じゃからの」

「なんかめんどくさそーなのでこの訓練嫌でーす」

「前言撤回!」


 あははははっ、とみんなから微かな笑いがこぼれる。エンジェルも、少しだけ笑った。


 ここは過ごしにくい戦争大星だけど、よかった。

 この星に生まれ、この学校に来れてよかった。

 この先生がこの学校を造ってくれて、よかった。



「それじゃあ授業に入るぞい。今日は最初の授業だからの、お主らが今使える限りの得意な『力』をみなに披露してもらう。『力』はこの森に向けて放てばよい。みなそれぞれ使える『力』は違うだろうから、できるだけ解説つきでな」


 玄武の指示に、生徒たちは「はーい!」と返事をした。

 そんな皆の目は、誰が見てもわかるくらいに輝きに満ち溢れていた。


「それじゃ、始めに披露したい者は――」

「はい! あたしやりたいです!」


 手を挙げたのは鳥南ちょうなだ。化物化が朱雀だと言っていたから炎系だろうか。


「積極的でよいな、朱雀 鳥南、やってみよ」


「たぁぁーーー!!」


 彼女の手のひらから放たれたのは、やはりというか炎だった。しかし、その『力』の絶大さは想像を遥かに上回っていて……。


「見ての通り、私は炎の『力』を使います! 技名とかは、まだよく分かんないですけど……。目標は、星一個焼けるくらいの火力にすることです!」


 鳥南がペコっ、と例をすると、大きな拍手と歓声が沸き起こった。


 でも、それも当然だろう。




 ―――彼女の放った炎は、森一帯を焼き尽くしたのだから。


「素晴らしい。これは期待できるの、ふっふっふ。さすがは四獣」

「ありがとーございまーす!」


 鳥南は明るく笑い、元いた自分の場所へと戻った。

 ラビジェルみたいな子が一人いて伝染したからか、この学級はおそらく他よりも陽気な性格の子が多い。


「そいじゃ、次は誰がやるか?」


 先ほどと違い、皆は緊張や戸惑いの色が強くなっているように感じた。

 1発目からここまでの『力』を平然と見せつけられ、格差による自分への反応を恐れているようだ。


「この後じゃ私、はずかしくてやれない」

「笑われる未来しか見えない……」


 それでも彼女は真っ直ぐに手を挙げた。


「はい! ラビちゃんがやるー! やりまーす!」

「よし、ラビジェル・バニー」


 彼女は自分の両手の指先を合わせ、指を曲げ、ハートの形を作った。


「えいっ!」


 その隙間から、ハート型の塊が放たれる。


 優しいピンク色で軟らかそうなその見た目に反して、実は結構固くて当たるとかなり痛いことを、家で魔法事故に巻き込まれたエンジェルだけが知っている。


 だから、それが木にめり込み、そして貫通したのを見た皆は唖然としていた。


「これがラビちゃんの『力』! すっっっごく可愛いでしょ、えっへん! ―えーっとー、技名は……なんだっけ? げんむーなにー?」


「技名はまだ分からないだろうからいい。それと呼び捨てをするな、玄武先生、じゃろうが!」


「えー? げんむみたいなオジさんに先生ってつける価値ないじゃーん」

「何だと!? ……評価はEっと。」

「えっ!? うそ! うそだってばケチ! げんむせんせーって仕方なく呼んであげるからAにして!」

「おおまけにまけてBじゃな。で、次は誰じゃ?」











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