第2話 正しい力の使い方
急に投げかけられた質問に対して曖昧な回答を返したエンジェルに、ラビジェルがぷんすかと怒り出した。
「なにそれ! ジェルまでラビちゃんのことバカにしてるの!?」
「ちがうよラビちゃん怒らないで! んーと、そう、えっとねー、うん。あれなの」
脳をフル回転させて言い換える言葉を探したけれど、まだまだ未熟な脳しか持たないエンジェルにはでは不可能だった。エンジェルとしても、急に分からない話を振られても困る。
だからといって、ここで平然と「うん。めっちゃ頭いいよ」なんて嘘をぬかしてはいけないと思う。
幼稚園時代のラビジェルの成績は下の下といってもよいレベルで、居残り補修はしょっちゅうだった。
化物界の人口がそもそも少ないのに、様々な事情が絡んで戦争はしまくるため、星の進化、そして強化を目的に幼少期から英才教育を受ける。
頭脳ならば上の中くらいだったエンジェルならともかく、ラビジェルのことを「頭良い」といえば、仮にこの先のテストで順位が出たとき……
見えている
足りない脳なりに必死に頭を捻らせていると、龍東がラビジェルを嘲笑した。
「ほーら、おねーちゃん困ってるじゃん? お前がバカを認めれば良いんだよ」
「ジェルなんとか言って! ラビちゃん、みとめないから!!」
「えー……。ラビちゃんごめんね、何も言えない。でも龍東君もひどいよ! バカとか言っちゃだめでしょ」
さじを投げたエンジェルの言葉を聞いて、ラビジェルはショックを受けて膝から崩れ落ち、対して叱られた龍東はぐっと言葉を詰まらせた。
「まさかジェルがあきらめるなんて……ラビちゃん、バカだったんだ……。がーん」
「――悪かった! ごめん! でも先に悪口言ってきたのお前だからな? お前も謝れよ?」
「……なんのこと?」
「は? しらばっくれるつもりか? エンジェルだっけ、こいつにも言ってやろうぜ」
2人の会話内容とそっぽを向いたラビジェルのとぼけ顔を見て、先に口を出したのはラビジェルだと理解して、エンジェルはそんな妹に冷めた顔を向けた。
「ラビちゃーん? 人に悪口は言ったらだめって、ようち園のころから何回も言ってるでしょ?」
「ちっ、……ごめんなさぁぁい」
「ちっ、とか言わないの!」
ラビジェルは最後ものすごく失礼ではあったけれど、まあ一応お互いが謝れたということで、エンジェルは「よし」と大きく頷いて席に戻った。
その直後と言うまではいかないが、すぐに2時間目の始まりを伝えるベルが鳴り、扉を横に開いて玄武が教室に入ってきた。
1時間目にいたのは女性の先生だったため疑問に思っていると、1人の少女がバッと手を挙げた。
"
確か、自己紹介の後でラビジェルと楽しそうに話していた子。
「せんせー、2時間目はさっきの先生じゃないんですか?」
「ああ。2時間目は特別授業だからの、わしが担当する」
「そうなんですか。何するんですか?」
「フッフッフ……。これからグラウンドに移動する。着いてからのお楽しみじゃ! ほぅら皆、立て」
奇妙な笑い声から並ばない移動が始まると、エンジェルの傍にラビジェルが駆け寄ってきて小声で話しかけてきた。
「ジェル、これから何するんだろうね」
「うーん……、あれじゃない? 戦いの訓練? みたいなやつ」
「『力』の使い方とかゆー?」
「うん、それだと思う」
ラビジェルはエンジェル答えを聞いて、心底不愉快そうに顔を歪めて両頬に手のひらを当てた。彼女は戦闘による顔の汚れが嫌なのだろう。
「そっか。あのさ、グラウンドってどうなってるんだろうね?」
校舎の造りが、入口→校舎→グラウンド→体育館となっているため、外からは見れなくなっているグラウンドはこれから初めて見る。体験入学的なものも何もなかったため、エンジェルもラビジェル同様気になっていた。
「うーん……。専用の設備とかあるのかな」
グラウンドに着くと、エンジェルは予想外の光景に息を飲んだ。
そこには―――
「ここって、ほんとにグラウンド?」
ライオンの獣人の少年が、ポツリと呟いた。
「なんか、やばいね」
吸血鬼の少女が、それに応じる。
一見は遊具などが置いてあるのありがちなグラウンドだったが、すぐにそれは間違いだと気づく。
在る物全てが煌めく太陽と澄みわたる青空に不釣り合い。
グラウンドの中心には大きな大きな闘技場のステージのようなモノが、その奥にはジャングルと呼べる程のツルで覆われた薄暗い森があった。
左側には熱を放つ真っ赤な溶岩やごつごつとした漆黒の岩壁、右側には黒々とした不気味なオーラを放つ液体の湖があった。
左奥はいくつもの危険なトラップがあるゾーンになっていて、右奥には巨大な檻があり、大量のモンスターが閉じ込められていた。
「本当に、戦いのためだけの場所だ……」
エンジェル含めほぼ全員の生徒が、改めて「正しい『力』の使い方」への不安にあおられる。
正しい『力』の使い方、それは――
「ここで皆は、他星との戦いのため、各々の『力』を磨いて行く。肝に銘じておくがよい」
玄武の言うそれ、戦争のために命を費やし、最高限に『力』を活かすことだった。
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