私の星と、炎の星。

雫 のん

第一章 皆の『力』と平和の1日

第1話 初めての学校生活


人類と共存する未来を――




―――


「は、初めまして! 私の名前は"エンジェル・キャット"。好きな動物は猫で、好きな食べ物は魚です! 化物化ばけものかは天使猫で、回復の魔法が得意です。よろしくお願いします」



 今日はここ、玄武小学校の入学式だった。


 この星の長老と呼ばれ、この星をの創立者だと噂される"玄武げんむ 亀蛇かめへび"が造ったこの学校では、一般常識、学問、『力』の正しい使い方を学ぶ。


 この学校の変わったところと言えば、その『力』ののことだろう。

 化物の集うこの星において、皆は基本的にそれぞれの形状と合った異能力を扱うことができる。


 それは千差万別であり人によって使える『力』は大きく異なるのだが、基本操作は単純でどんな『力』も大した違いはない。

 よって、間違った使い方をしないようにと10年間の義務教育が存在する。



 初めての学校生活に、エンジェルは期待で胸を膨らませていた。

 自己紹介を終えて席に戻ると、窓から吹く暖かい春風がエンジェルの猫耳と翼、ボブの白髪を優しくなでた。窓の外を眺めると、暖かな陽を浴びた桜の樹が嬉しそうに満開の花を咲かせている。


 入学のために買った、まだ着なれない制服のような服――水色のスカーフと、裾にフリルがついたワンピースが学生っぽい感じがして嬉しくて、何回もぐいぐいと引っ張ったりしてしまう。

 この学校に指定の制服はないため私服だが、学生気分を味わいたくて買って貰ったお気に入り。


 エンジェルが幸せ気分に浸っていると、教卓の方から、元気で可愛い、幼さ全開の声が聞こえてきた。


「ラビちゃんの名前は"ラビジェル・バニー"! さっきのエンジェルの妹なの!!好きな食べ物はいちごとニンジン! よろしくね!」


 ニコっと愛くるしい笑みを浮かべた彼女はエンジェルの義理の妹。


 きらきらとした大きな光を宿すくりくりの白い瞳と、さらさらの薄ピンクの長い髪を姫カットにしているところが特徴の美少女。

 さらに彼女の化物化は天使兎であるため、ふわふわのうさ耳とまん丸のもふもふとした尻尾も生えていて可愛さ倍増である。



 絵に描いたように綺麗なフリル形の白い翼も、ごく普通の天使の翼(しかも小さい)しか持たないエンジェルにとってものすごく憧れだ。


 血のつながりがあればさほど違わなかったのかもしれないのに、と嫉妬がちな思いを馳せることもしばしば。


 その後も自己紹介は順調に続き、最後の1人が終わったあたりで丁度よく1時間目終了を告げるチャイムが鳴った。

 とは言っても、他の星より遅れているこの星には機械が存在しないため、玄武が廊下を歩きながら、鉄製の手持ちベルを鳴らしただけだったが。



 25分の長い休み時間に入り、色んな子たちがそれぞれに声をかけ、無邪気に笑いあっている。


 エンジェルは話しかけて貰えたら話せるのだが、自分から声をかけたりするのは苦手なのでその様子を席でぼうっと眺めているだけだったが、対してラビジェルは早速楽しそうに女の子と話している。


 


 そうやって時間が流れるのを待っていると、エンジェルの机が何者かの手によってバンっ、とおもいっきり叩かれた。

 顔を上げると、そこには目をキラキラと輝かせた妹の姿が。


「……ラビちゃん、どうしたの?」

「ジェル、じこしょーかいおわったね! あのさ……」


 来た、と、少し身構える。幼稚園の入園式でも、同じようなことがあったから。



「どう? 良さそうなイケメンいた??」



 これだ。あの日のラビジェルも、全く同じような台詞で、全く同じように声をかけてきた。


 エンジェルはラビジェルの言うようなステータスとやらについてはよく分からないので、いつも返事に困ってしまう(入園式以外でも、イケメンに出会う度に聞いてくるからだ)。


 かっこいい! と思うような場面やオーラはあるけれど、ラビジェルが言うにはそういうことじゃないらしい。


「ラビちゃんはまーたそんなことを……。何回も言うけど、私にはよく分かりません」

「えー……ジェルもメンクイになろーよー」

「なりませんー。わたしは性格で人を見ますー」


 エンジェルは少し大人ぶってそう言った後、頬をぷくっと膨らませているラビジェルを見て、何だか面白くなりクスッと笑いを溢した。


「ジェル! なに笑ってるの!?」

「ごめんね、さっきのラビちゃん、ほっぺプクってしてたでしょ? 可愛かったんだよ、でも面白くって…」


 言い訳をしたかつまだ笑いが収まらないでいるエンジェルに、ラビジェルは膨れっ面のまま腰に手を当てて言った。


「もー! じゃあ話もどすね? あのね、ラビちゃんは――」


 一度言葉を切って勿体ぶりながら、ラビジェルは続けた。


「りゅーととか、良いとおもった!」


 彼女が言うのはおそらく、"青竜せいりゅう 龍東りゅうと"という少年のこと。

 肩までぎりぎり届かない長さのさらさらとした質感の深い青緑の髪と、灰色の切れ長の双眸が印象的な美少年。

 名前の通りに青龍の少年で、大きめの翼も艶やかで目を奪われるほどだった。



 青龍、ということは朱雀、白虎、玄武と並ぶ四獣の家系。


 化物界では由緒正しき名家であり、いわゆる貴族。つまりは庶民であるエンジェル達姉妹とは住んでる世界から違うタイプ。



 四獣の名前は、玄武含めてエンジェル達と同じで化物化まんまなところがあり、何となく既視感を覚えた。


 真っ直ぐな目線で毅然として話す姿は大人びていて、エンジェルもその雰囲気、オーラがかっこいいと思った。


「ああ、あの子。確かにそれは分かるかも」

「でしょでしょー! ちょっと声かけてくるー!」

「え!? ちょっと、ラビちゃん!?」


 くるりと向きを変えて走り出すラビジェル。その後ろ姿呆れ顔で見送りながら、いっしょに行けばよかったかなと、彼女に見えないところでちょっぴり後悔。

 こういう時は思い立ったが即行動の義妹が羨ましい。



 ラビジェルが傍を離れたので、再び次席で時が過ぎるのを待つ。

 そのうちにうとうととしてきて、いつの間にかそのまま眠りについた。


―――


 少しして、背中の後ろの方からなにやら騒がしい声が聞こえて目をさました。

 眠気で重い頭を再び起こして振り返ると、視界にラビジェルの姿が映った。そして例の龍東の姿も。



「ほんとうざい! ラビちゃんのことバカにしてんの!?」

「そうだよ! そもそもさっきお前だって……」


 何の話かはさっぱりだが、喧嘩をしていることだけは寝ぼけた頭でも理解できた。

 同時に、もう喧嘩するくらいに仲良くなったのかなーなんてのんきな考えが頭をよぎる。


 その時、ラビジェルが急にバッとこちらを振り返って叫んだ。


「ジェル! ラビちゃんべつにバカじゃないでしょ!?」

「え、なに? うん?」

「だからー、ラビちゃん別に頭悪くないでしょってこと!」

「ああ、そういう……。うん、まあ、絶望的ではないよね」



∴*…あとがき…*∴

数ある作品の中から、この作品をここまで読んでくださり本当にありがとうございます(*´▽`*)

ここからはだんだん重い内容になっていきます。意味わからん、と思ったり変なところあればコメント機能にてお伝えください!

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