第22話 過去と嘘

「っえ……?」


今まで張り付いていた孤木さんの笑顔が引きつった。


「全部分かるんだよ……」


_______________

そう。

俺は人の表情が人一倍読めた。

幼い頃から人に囲まれて生きてきた。

父さんはまぁまぁ人気な俳優で、ドラマのチョイ役などに使われる感じの仕事をしていた。

俺は、テレビの向こう側に映るキラキラした父さんが好きだった。


でも、そのキラキラしていた父さんは世界一の嘘つきだった。

元々父さんは母さんと結婚していることを公開していて、1ヶ月に1回はデートをするほど母さんと父さんは仲良し……だったはずなのに。


スキャンダルが公になったのは俺が中一の時だった。

母さん以外との。


自分の家が崩れていく音が聞こえた。

大丈夫よ。と笑う母さんの姿はどこか苦しそうで、ただただ母さんにごめんと謝る父さんはどこか浮かれているように感じていた。


俺は母さんのメンタル回復に務めた。

表情、顔色を観察して、どんなことをして欲しいか分かるようになっていた。

最近は悲しそうな顔をすることはなくなった。

俺は心底ほっとした。


俺は中学校、高校でこの顔色を伺うことを武器にしようと思った。そしたら友達が沢山出来た。

人間というものは、愛想笑いというものがあるものの、ずっと心から笑わないというものはない。

泣いたり、心配したり、怒ったり、これは絶対に心が関係する。

心から悲しみ泣き、心から相手を思い、心配し、心から相手を憎み、怒る。


だから、彼女、孤木さんを見た時驚いた。

全部の感情、表情が張り付いている。

この人は最高の嘘つきだ。

でも俺には隠せない。

ずっと顔に張り付いている太陽のような、明るい笑顔の裏側には真っ黒の感情がグルグル、グルグル渦巻いていた。

孤木さんの心のなかはいつも泣いていた。

怒っていた。

憎んでいた。


_______________


「孤木さんはいつも頑張ってるよ。みんなのために嘘ついて、空気読んで、笑って。」


孤木さんの吸い込む空気が揺れる。


「全部分かってた。孤木さんは、佐倉のことが好きなんだろ。」


この感情が恋なのかはまだ分からない。


「嘘つきが悪いわけじゃない。でも、俺の前では、嘘つかなくていい。好きに笑って、泣いて、怒っていい。俺には好きに感情をぶつけてもいいから。」


でもこの子を嘘から救うのは佐倉でもない。他の奴とでもない、俺がいい。


「うん……」


孤木さんの震えた声がした。

もうすぐ昼休みが終わる。




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赤い糸を否定したい Alice @shironeko2010

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