第18話 秋と星空

新学期が始まった。

夏の蒸し暑さは何処へやら、だんだん肌寒くなり、セーターを着込む生徒が多く見られるようになり、俺たちは、午後7時30分、日が沈んで間もない頃、山に来ていた……


_______________


今日は天文学部の天体観測の日。

夏、黒瀬さんと色々あってから少し気まずいけど、今回は前の天体観測と違って自由に行動していいから、ヒカ君と一緒に行動できる!

って思ってたんだけど……

「凪、途中でコケるなよ。」


「分かってる。ガキじゃないんだから……」


やっぱりあいつが着いて回る。

視界がチラつく。

多分ヒカ君は優しいから誰にでも優しくしちゃうんだ。

それなら、それがぼくにも適用されるなら……

ここから下は落ち葉が沢山あることは確認済み。

多分、ここから落ちてもしっかり受け身をとれば大丈夫。

ヒカ君は僕だけ見ていればいい。


「わっ!」


わざとらしくない悲鳴をあげてぼくは足を踏み外したような振りをした。

すると直ぐに、

「るぅ!」

というヒカ君の声がした。

ああ、本当に優しい人。

こんなぼくとと一緒に落ちてくれるなんて。

小さい頃から何も変わらない。


上手く受身をとって、身体への被害を最小に抑える。

その後ヒカ君が落ちてきた。

暗い木々に囲まれた場所。

今だけは誰にも邪魔されず、2人きりだ。


「るぅ、大丈夫か?」


「うん!だいじょう…あ、」


落ちる最中、木の枝で足を切ってしまった。

「仕方ない。消毒するから、足かせ。」

消毒は、染みるし、痛いから嫌いだけど、ヒカ君がしてくれるなら嬉しいなぁ……


なんの前振りもなく独り言のようにヒカ君が呟いた。


「るぅ…お前、凪のことについてなんか知ってるだろ。」


「……なんで?そう思ったの?」


冷や汗が滲む感覚がした。

今までヒカ君の前ではがんばって本当の自分を取り繕って来た。

嫌われないように、いっぱいいっぱい嘘をついてきた。

いつもニコニコして、愛想良く、憎悪とか、憎しみとか、嫉妬とか、全部外ズラの自分を被せて、自分は着ぐるみを被ったマスコットキャラクターだ!なんて錯覚したときもあった。


それが今、最もバレたくない人物にその化けの皮を剥がされようとしている。

ゴクリと、生唾を飲み込んだ。


「凪の様子がおかしいんだ。やけにるぅに怯えてるっていうか……なんというか……」


やっぱり、ヒカ君はあの子のことしか見てない。

何度思ったことだろう。ヒカ君の隣がぼくならいいのに、なんでヒカ君の隣はぼくじゃなくてあの子なんだろうって。

そう思う度に胸が苦しくなった。


「そうなん……だ。」


言葉は出てこなかった。

こんな状態で上手くとり繕える気がしなかった。


「何か知ってるか?」


咄嗟に言葉がでた。


「いや、何も。」

やっぱり私は本当の嘘つきだ。

本当のことは喉に詰まってなかなか言葉に出せなくて、嘘はスラスラと口から出てきた。

ヒカ君の前でも私はただの嘘つきにしかなれない。

ぼくじゃダメなんだ。


「あと、最近るぅも思い詰めてるような顔してた。」


「えっ…」


「心配だよ。」


やっぱり、ヒカ君はずるい。

なんでこのまま諦めさせてくれないのだろう。

目が潤んで、視界が揺れる。

泣くな。泣くな。


諦めたら楽になれる。

諦めたら……


ふと、空を見上げた。

満天の星空。

まさに空が、星に満ちていた。


「天ちゃん、星が綺麗だね。」


この気持ちは嘘じゃない。

望遠鏡なんていらないほど今日は星がよく見える。


































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