第14話 落ちる線香花火とお泊まり

夏祭りのクライマックスの花火が

終わって俺も凪も余韻に浸っていたころ、ポケットの中にあったスマホがなった。

鈴からのLINEで

『此ノ花公園集合!!!』

とだけ来ていたから凪に門限の確認をして、

『了解』

と返信をした。

自転車に乗り、公園への道を辿った。


_______________



『了解』と返信がきて、俺は孤木さんの様子を見てため息を一つ溢した。

相変わらずいつもの様にニコニコしているがやはり、何処か違和感。

誰も信頼していないような、他人と自分の間に一つ線を引いて、誰も来られないように、自分の心に触れられないようにしているような気がする。


結局俺たちは打ち上げ花火を一緒に見ることができなかった。

せっかく一年に一回のイベントなのに楽しまないのは勿体無い。

ふと、コンビニが目に入り入店すると、手持ち花火が売ってあった。

これは行けると思い、走って家にバケツとチャッカマンを取りに行った。そしたら母さんがスーパーで買ってきたラムネを持たせてくれた。

バケツの中にラムネをいれて公園に帰るともう糸野井と黒瀬はもう着いていて、糸野井は孤木さんと談笑していた。


「おー待たせてごめんな。」


花火でもしよーぜ!せっかくだし、と呼びかけて、俺は全員に花火を持たせ、一気に点火させる。


やっぱり、打ち上げ花火と手持ち花火は別の良さがある。

みんなが、ワイワイと楽しみながらまた、夏が終わるのを感じた。

ふと、孤木さんのことが気になって見てみると、

「あ!天ちゃんの花火きれー!ぼくにちょーだい!」


「嫌だーこれ俺のだもんねー」


「ヒカ君のケチ!!」


ふーん…

そういう顔もできるのか…


「おもしれー女じゃん…ってあ。」


俺の線香花火が1つ、落ちた。


_______________


青峰さんが買ってきてくれた手持ち花火が終わって、今度こそお開きのムードになった。

何も考えずに「サイコーに楽しかった!!」と言えば嘘になるが、やっぱり、来てよかった。

でも、まだ、帰りたくないな。

ずっとここにいたい。


もう、自分じゃいられないあんな家には居たくないなぁ…


やっぱり、私は脆くなってる。

佐倉に出会ってから、あの温かさを知ってから。


「んじゃ、お開きなー。えと鈴木、お前一人で帰れるか?」

佐倉が私に問いかける。

困らせないかな。いや、絶対に迷惑をかけてしまう。

でも、口に出さずにはいられなかった。


「…くない。」


「何?もっかい言って。」


「まだ、帰りたく…ない。」


あーだよな…と困ったような表情を浮かべた佐倉の姿をみて自分の発言を後悔する。


「あ、それならぼくの家、泊まってく?親出張なんだ。」


確か、同じ天文学部の1年。

孤木さん。

佐倉の幼なじみだった気がする。


「おっいいんじゃね?」


じゃあ、るぅ頼んだわ。

と、佐倉達は帰ってしまった。


2人きりになって、気まずい雰囲気の中、私は孤木さんの家路を辿った。


「そういやさ、君名前は?」


孤木さんが明るく問いかける。


「鈴木春です。」


もちろん即興で作った偽名だ。


「ふーん…」


孤木さんは疑うことなく歩いてった。

一応コンビニで着替えを買って、服は孤木さんのを借りることになった。

何から何まで申し訳ない。

また、

「そのままじゃ気持ち悪いでしょ。シャワーどうぞ。」

とシャワーまで貸してもらった。


一通り、色々なことを世話してもらって、あとはもう寝るだけ…となった時、孤木さんがおもむろに口を開いた。


「ずっと思ってたんだけどさ…君鈴木さんなんて人じゃなくて、黒瀬さんだよね?」






















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