第12話 祭りの前、彼らは

「行くぞ。鈴達も今から向かうって。てか、自転車は?」

自転車置き場から自転車を取り出す佐倉が私に聞いた。

そういえば此ノ花神社はここから少し遠い場所にあるらしい。

でも、


「私…自転車持ってない…」


「はぁ!?」


そんなJ k聞いたことねぇよ!

と佐倉が突っ込む。


「だって、家学校に近いし…何より友達いないし…」

慣れない格好をしているからか、いつもより弱気になってしまう。

制服のいつもの私、男子の黒瀬凪としてなら、もっと強気に言い返せたはずなのに。


「はぁ…後ろ、乗れよ。俺が連れてってやる。」

「いや、悪いよ。歩きで…」


二人乗りなんて…先生とかに見つかったらなんと問いただせるか…


「もー言っただろ!あの夜!お前がしたかったこと全部やるって!黙って乗れ!二人乗りだってなぁ!今は夏のお魔法かなんかで全部全部許されるんだよ!」


なんか必死になってる。

佐倉が私のために。

そんな呑気に思う私もおかしいのかな。


「ふふ」


面白いな。

楽しいな。

そんな気持ちになるのは、コイツのおかげなのかもしれない。


「何笑ってんだ!」


「もういいや。行こっ」


「なんだそれ!」


糸野井が跨いでいた自転車の後ろに乗る。

人生初のイベントはお前に預けたぞ佐倉。


「てか、お前が凪なのバレたらまずいからお前は俺と同じ中学校だった鈴木っていう設定な。」


「はいはい。」


やっぱり迷惑かけちゃってるな…

でも、そんな気持ちよりも楽しみの方が大きかった。



「そういや、さっき…ごめん…」 


佐倉が急に謝ってきた。

浴衣のことかな、そりゃ急にあんな見苦しい私の浴衣姿見せられたああなるよな。

あんなので完璧な返事ができるのはどっかの物語の王子様くらいだ。


「別に気にしてないけど…」


まず謝るのは私のほうだし…

すると糸野井は「あー!もー!」

と言って深呼吸(?)をしていった。


「あの時、一瞬!ガチの一瞬、凪のこと、かっ…かわいいって…思った…。」


「えっ」


アイツが私をか、かわいい…

これもっかい聞きたいな…


「ねぇ佐倉。」


「なんだよ…」


「もっかい言って。」


「いっ嫌だよばーか!」


「えぇ〜ケチ。」



花火が上がるまで

       あと1時間。


_______________

ピロン


俺のスマホからと軽快な通知音が聞こえる。

誰から通知が来たかはもう明確だ。


『今から向かうね!』


その相手は孤木るぅ。

同じ委員会のかわいい子。

まぁ、別に特別な恋心は抱いていないが、この夏祭りで落とせたらいいなと思う。 


夏祭りは出来るだけラフな格好で。あと、女子には奢るのが好感度高いらしいから小遣いは多めに持って行く。


「よしっ」


『了解!俺も今から向かう』


待ち合わせ場所は神社鳥居前。

花火がよく見える穴場スポットだ。


「いってきまーす♪」


俺は勢いよく玄関の扉を開けた。


花火があがるまで

       あと1時間

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