第11話 重なる兄弟と初めての浴衣



「はーっ!懐かしいねぇ。昔は

アタシもお母さんにこうやって着付けられてたよ。」


夏休みど真ん中の真っ昼間。

私は人生初の浴衣を佐倉のお姉さんに着付けられている。


「さっきさ、なんでアタシに謝ったの?」


「それは…」


今までそうやって沢山の人に迷惑をかけたから。

謝らないと嫌われるから。


「まぁ、無理に答えなくていいし。アンタはアンタだ。自分らしくいればイイんだよ。」


重なる。

あの夜のアイツと。


『凪は凪だ。』


あの言葉が、私の居場所を作ってくれた。

あの言葉で私は救われた。


「兄弟で、似てますね。」

固かった表情筋が、少し緩んだ気がした。


「よく言われるんだよねぇ。」

近所のおばちゃんにスーパーのお姉さんにも言われたなぁ、と呟きながら、懐かしそうに語ってくれる。


ふと、疑問に思った。


「そういえば、佐倉のお姉さん…?はどうして留学したんですか?」

身近な人でも、留学している人は少ない。


「「佐倉のお姉さん」てwwwそんなかしこまらなくていいよ。真依でも、真依ちゃんでも好きに呼んで。留学した理由?んー…そうだなぁ、自由になりたかったからかな。」


「自由…?」


「そ。自分の地元とか…そういうのが息苦しくなったんだよ。」


明るい声色とは異なり、真依ちゃんは笑っていなかった。


「まぁ、アタシが言いたいのはさ、居場所は小さくなくていいってことよ。学校とか、家だけにこだわらなくていい。世界は広いよ。はい!できた。似合ってるねぇ。」


見てみなと真依ちゃんは鏡を持ってきてくれて、その鏡に映る私は、私じゃないようだった。


「これが…私?」


綺麗な朝顔の浴衣。

真依ちゃんが結ってくれた髪をみると、のばしていてよかったと思える。


かわいいハンカチが欲しかった幼稚園。

赤いランドセルに憧れた小学校。

セーラ服が着たかった中学校。


そして、生まれて初めて浴衣を着た高校。


「凄い…!凄い!かわいい!」


そうだ。私はずっと、こういうのが着たかったんだ。


「気に入ってくれて嬉しいよ。光にも見せてやんな。」


扉を開けると驚いたような顔をした佐倉がいた。

「どう…?」

恐る恐る聞いてみる。

いつも可愛げの無い反応をとっているから多分引かれたかな。


「どっ、どうって…えっ…と…ッスーか…ま、馬子にも衣装って感じ?」


そうだよな。

真依ちゃんがいる前で「ないわー」とか言えるわけないし、変な気を使わせてしまった。


「あ、あはは…」


ここは笑って乗り切るしかないかな。


「サイテー。」


ふわふわと澱んだ空気が真依ちゃんの一言で凍りついた。


「女の子にそんなこと言う!?大体、これ、アンタのためだからね!?」


真依ちゃん…私そんなこと言ってない…

でも、まぁいいや…どうにでもなれ…

「もういいよ。もう花火あがるんでしょ。行ってきな。」


早く早くと真依ちゃんは追い払うような手振りをした。


「真依ちゃん、行って来ます。浴衣、ありがとう。」


「いい顔だね。楽しんで。そんでヘタレ光!漢を見せな!」


「うるさいな!分かってるって…」




玄関の扉がしまった後、

「青春だねぇ。」

と真依ちゃんが呟いたことは私たちはまだ知らない。

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