第8話 恋バナと蜂田の決意
「なぁっ!糸野井!恋バナ♡しようぜ!」
凪と梓先輩、俺と蜂田先輩で別れてから約5分後、ワクワクした小学生のような眼差しで蜂田先輩が話しかけてきた。
「恋バナ…ですか?」
そんなのしたのは中学の修学旅行以来だ。
「そう!恋バナ!問題だ!俺の好きな人はだーれだ!」
「梓先輩。」
「な、なな…なんで分かる!?」
ネタじゃなくガチで当てられないとおもったのか?
バカなのか?
「よくバレないと思いましたね。わかりやす過ぎです。」
「そ…そうか…?」
そう言って蜂田先輩は照れながらぽりぽりと頭を軽くかいた。
「そんなに好きならさっさと告ればいいのに…っぁ」
心の声が漏れてしまった
「それが…無理なんだよ…」
「なんでですか?」
「先輩は、絶対に叶えたい〈夢〉があるらしい。俺が先輩の〈夢〉を邪魔するわけにはいかねぇんだよ。」
先輩…「恋バナ♡」なんて言うから心は乙女なんだなぁって思ったけど意外と男らしいな。
「んで、お前は?」
「何が…ですか?」
「何がって…とぼけんなよぉ」
うっっめんどくさ…
「別に誰も…」
『げっ気持ち悪いんだけど…』
『まぶしい…』
『ごめん…腕…大丈夫?』
「?」
なんで凪の顔が思い浮かんだんだ?
まぁ気のせいか。
「そういえば、なんで蜂田先輩はそんなに梓先輩が好きなんですか?」
俺がさっきから先輩のわがままにつきあってたんだ。
これくらい、いいだろう。
「え、それ聞いちゃう?マジで聞いちゃう?」
オーバーリアクションとはまさにこのことだろう。
「もったいぶらずに、ほら、言ってください。」
「もぉーー仕方ない後輩だなぁ。先輩にはぜっっっっってぇ言うなよ!?」
_______________
俺と先輩は同じ中学だった。
俺は中学1年の春、すげーひねくれてた…気がする。
この世の中に本気で反抗してたし、反抗すれば世界を変えられると思ってた。
先輩、親なんか大っ嫌い。
そいつらが言ってること、全部綺麗事に聞こえてくるから。
そんな俺が恋をした。ひまわりの花が揺れるように笑うそんな先輩に。
笑うその横顔がとても明るくて、眩しくて、気がつくと俺の足は勝手に先輩の方へ動いていた。
「先輩っ!付き合うことを前提に結婚してくださいッ!」
もう俺は俺が言ったことがわからない。
先輩はしばらく固まって、それから堰を切ったように笑い始めた。俺は何故先輩が笑ったのか分からなくて、ただ自分の頭上にはてなマークを浮かべるしか出来なかった。
すると先輩が一言。
「ふふっっ…あのっプロポーズしてくれて嬉しいのですがっ…フッ…言葉…逆…です…」
ん…?逆…?
「付き合うことを」…
「前提に」…
「結婚してください」!?
やべ、やらかした。
ぜってぇ引かれたわ…
「まぁまぁ、そんな絶望に満ちた顔しないでよ〜。私は2年の森本 梓。君、名前は?」
「1年、蜂田 竜二っす!」
「そ、よろしくね。蜂田くん!」
俺と梓先輩との出会いは笑う絶望だった。
先輩と出会って3ヶ月くらいたって、先輩は学校に来なくなった。
あくまでも同級生から聞いた噂だが、先輩のお姉さんが心を病んで施設に入ったらしい。
俺は先輩と出会って、ツッパるのををやめた。
先輩に見合う男になりたくて。
これから先輩のことをたくさん知っていきたいと思ってた…のに、
1週間ほどして、ケロッとした先輩が学校に来た。
特に変わり映えもなくて正直ホッとした。
「おはようございますっ!先輩!」
久しぶりに先輩が来たことがもう嬉しくて、嬉しくて、いつもよりテンション高めの挨拶をした。
「あっ!蜂田くん!おはよ。」
いつも通りの笑顔のはず…でも、
違和感。
いつもと何か違う、ぎこちない笑顔。
無理している、演技のような作り笑い。
一見元気そうに見えるけど、その元気さの間からうっすら分かる
悲しみ、憂鬱、後悔、苦しみ。
俺は今までにないほど考えた。
…俺が、今、先輩にできることはなんだ。
励ます?おもしろい事をする?
楽しい事をしてもらう?
いや、それも全部ひっくるめて、
〈先輩の笑顔を取り戻す〉
心に決めた俺は、毎日、毎日、休み時間は先輩のいる教室に通った。特別何かをするわけではないけど、他愛も無い話をしたり、先輩が好きだった星座占いや星に関する神話を調べてきてはなしたりした。
そうやってなんでもないことをして、先輩の心の奥底にある傷を少しずつ癒すことができればと思った。
でも、先輩の傷は俺が思っていたよりもっと深く、もっと強く刻まれていた。
先輩の傷を癒すための生活をしばらく送り、先輩に出会って2度目の春がきた。
先輩が3年の時の年はあっという間だった。
先輩の卒業式、なぜか涙は出なかった。
割と普通に送り出せた気がする。
でも、結局出会ってからの1年間半、俺は初めて見た先輩の笑顔以外、〈本物の笑顔〉を見なかった。
最後くらい見たかったな、なんてな。
俺が3年の夏、俺は進路を決めなくてはならなくなった。
特にやりたいことはなかったし、おふくろにはせめて高校には行ってほしいと言われていたので俺は進学することにした。
インターネットで調べると本当にたくさんの高校があり、よくわからないけど、唯一目に留まったのは、
「東京都立此ノ花高等学校…」
天文学部が有名な学校で、俺は先輩の影響で天文学や神話、星の名前などを覚えていたため、ここを受けることにした。
正直、俺は頭が良くないし、受かるとは思っていなかったから滑り止めも沢山受けた。
でも、
「受かった…」
第一志望の高校に受かることができた。
正直期待はしていなかったから、受かったことがわかると嬉しすぎて思わず飛び跳ねてしまった。
4月、俺は此ノ花高等学校に入学した。
その高校で俺は見つけた。
ずっと前に卒業したはずの先輩を。
あの中学の春、俺が見惚れた横顔を。
「せ、先輩…っすか?」
「蜂田くん…?」
正直驚いた。
沢山の高校があるなか、先輩がこの高校を受けるとは。
「久しぶりだね!元気だった?」
…やっぱり、張り付いた笑顔。
でも、こうなったら俺はもう一度、俺がずっと前に見惚れたあの笑顔がみたい。
俺は、先輩にもう一度、明るい笑顔で、笑ってもらいたい。
_______________
「ま、まぁまぁまぁ…そんな過去があってですねぇ…って!も、もういいだろ!明日も早いからもう寝るわ!おやすみ!」
「あ…はい。おやすみなさい。」
梓先輩にそんな過去があったなんて…
俺はまだまだみんなのことを知らない。凪のことも、るぅのことも。
寝静まった夜。
どこかモヤモヤする心を胸に俺は屋上へ向かった。
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